6-9:オリオンオークション
そして夜。
オークション開催の時刻に近づくと、お客さんが続々とやってきた。
みんな、りっぱな身なりをした大人たち。
一見して裕福な貴族か、あるいは資産家の市民、ブルジョワだとわかる。
わたしも一応貴族なんだけど、ルーグ家は残念ながら貧乏貴族。
だから聖女の伝説にすがって、家の名を広めようとしているんだよね。
となりにいるレオンは大国の王子さま。言うまでもなくお金持ち。
もしかして、場違いなのってわたしだけ……?
「ルゥさま、まもなくオークションがはじまります」
会場にはお客さんがいっぱい。
席はほぼすべて埋まっている。
「この中に怪盗ゼロがいるのかな」
「わかりません。ですが、その可能性は高いでしょう」
お客さんだけでなく、警備の兵士も会場にたくさんいる。
ここで怪盗ゼロが現れても、あっという間に捕まってしまうだろう。
もしかすると、怪盗ゼロは絵画『花畑』を盗むのは諦めるかもしれない。
なんて、わたしは楽観視していた。
「みなさん、ようこそ我がオリオンオークションへお越しくださいました」
舞台に支配人のオリオンさんが現れてあいさつをはじめた。
照明が暗くなり、ざわついていた会場が静まり返る。
オークションがはじまったのだ。
オリオンさんのあいつが終わった後は商品が次々と競売にかけられた。
その多くが宝石、名画、骨董品。
いずれもとんでもない額で売れていき、わたしはあ然としていた。
さっき競り落とされた、なんの変哲もない古いツボ。
あれが競り落とされた金額は、単純に計算しするとわたしとレオンの食費の100年分に相当した。
「ね、ねえ、レオン。本当にあんな古いツボにそんな価値があるの?」
レオンに耳打ちすると、彼はにこりと応える。
「はい。今は亡き巨匠の傑作ですので」
「それって、とっても頑丈だとか、中になんでも入る魔法が宿ってたりするの? 逆さにして振ったら金銀財宝が出てきたり」
「いえ、落としたら割れますし、花を飾る程度の水しか入りません。振って出てくるのはチリやホコリでしょうね」
「普通のツボじゃない!」
「『巨匠が作った』という付加価値が需要なのです。美術品は道具ではなく資産ですので」
説明されてもわたしにはあのツボは古びたツボ以外の何物にも見えなかった。
あれが食費百年分の価値があるとは到底思えない……。
お金持ちの考えることってわからない。
お金持ちの紳士たちは、目の色を変えて骨董品や絵画に次々と値をつけていく。
怖いくらいの熱狂。
この夜、オリオンオークションでは怖ろしいほどのお金が飛び交ったのだった。




