6-8:オリオンオークション
マーガレット・ノキアの絵画『花畑』がオークションにかけられる当日。
わたしとレオンはオリオンオークションのオークション会場にいた。
中はもちろん、外にもすでに警備の衛兵がたくさんいる。
怪盗ゼロが現れるということで、王国が特別に兵士を手配してくれたのだ。
国が手を焼くほど怪盗ゼロは活躍――もとい、悪事を働いているということ。
「ゼロと名乗る男がルゥさんのもとに現れたとは」
支配人のオリオンさんがつぶやく。
わたしの『刻のアトリエ』に現れ、ゼロと名乗った美男子。
怪盗ゼロと同名という偶然も考えられるけれど、このタイミングで考えてそれはないだろう。
なんて大胆なんだ。
驚きのあまり呆然としていたせいで、結局あのときゼロを逃がしてしまった。
慌てて店を出たときにはすでにゼロに姿はなかったのだった。
「なんとしてもゼロを捕まえなければ。我がオリオンオークションの威信にかかわります」
オリオンさんがわたしの手を取ってぶんぶんふる。
「期待していますよ、聖女さま」
「あ、あはは……」
わたし、どこにでもいる普通の女の子なんだけどな……。
これはレオンに期待するしかない。
なんたってレオン、なんでもできるからね。
わたしは視線でレオンに助けを求める。
レオンはその視線に気づいてにこりと笑ってくれた。
オリオンさんが支配人室に戻り、会場にはわたしとレオンの二人きり。
今はまだ昼間。オークションが開催される夜までまだまだ時間がある。
競売の品も保管庫にしまってある。
「ねえ、レオン。怪盗ゼロを応援している人もいるんだよね」
「残念ながらそうですね」
怪盗ゼロは富める者から財産を盗み、持たざる者に分け与える義賊。
ここ数日で街の人たちとの雑談で怪盗ゼロの話題を振ってみたところ、みんなゼロを英雄扱いしていた。
王都は華やかだ。
けれど、その影には旧市街地の貧困層居住区があり、その日食べるものにも困るような人たちが無視できないくらいいる。
やむを得ず盗みをする人、人を傷つける人、人を殺す人……。
「貧困は個人が解決できる問題ではありません。ましてや法を犯すなど論外です」
それはわかる。わかってる。
けれど、庶民が怪盗ゼロを英雄視するのも理解できてしまう。
そんなわたしの迷いを振り払うようにレオンがまたにこりと笑う。
「安心してください。ルゥさまが怪盗ゼロを捕まえることは正しいことです。決して間違いではありません」
「……ありがとう。そうだよね」
レオンにそう言われると、迷いが晴れてきた。
理由はどうあれ、泥棒は悪いことだよね。
それに、怪盗ゼロがこの前のあの軟派な人なら、遠慮なく捕まえられる。




