6-7:オリオンオークション
「ふんふん。おしゃれじゃん。こういう小物も売ってるんだ」
砂時計を手にするお客さん。
美形の青年だけど、衣装は派手。女性なら誰にでも甘い声をかけそうな、軟派な感じ。
誠実なレオンとは真逆の印象だ。
お客さんの視線がわたしのほうを向く。
いきなりだったのでわたしは背筋をぴんと伸ばしてしまった。
視線に気づかれちゃったかな。
「キミがルゥ・ルーグかい?」
「えっ、知ってるんですか?」
「王都で『刻のアトリエの聖女さま』を知らない人はいないよ」
「あはは……」
ちょっと照れてしまう。
実はけっこう評判いいんだよね、わたし。
「ふーん」
お客さんが近寄ってくる。
そしてカウンターに手をつけて身を乗り出し、鼻と鼻が触れ合いそうな距離まで顔をぐいっと近づけてきた。
緊張して身動きが取れなくなる。
「ルゥ。キミ、かわいいね」
顔が燃えるほど熱い。
わたしは慌てて後ずさった。
「か、からかわないでくださいっ」
自分が『イモ娘』なことくらい自覚してる。
やっぱりこの人、軟派だ。
ううー。早くレオン帰ってきてよー。
「いや、本当にかわいい。一目ぼれした」
急に真面目な声色になるお客さん。
女性を魅了する声だ。
「俺のものにしたい」
「ひ、冷やかしなら帰ってくださいっ」
「あらら、フラれちゃった。俺、モテるのに」
苦笑して肩をすくめるお客さん。
「でも俺、本当にかわいいと思った女の子にだけ声をかけるんだよ」
「そ、そうですか……」
「ルゥ。また、遊びにきていいかい?」
甘い声。
こういう男の人、苦手なはずなのに。どうしてだろう。嫌悪感は抱かない。
むしろ……。
「ルゥさまから離れてください」
そのときだった。
レオンが帰ってきたのは。
レオンはわたしに言い寄っているお客さんの肩に手を置いてそう言った。
「ナイトのご帰宅か」
「僕はルゥさまの執事です」
お客さんは意外にもあっさりとわたしから離れてくれた。
き、緊張した……。
ほっと胸をなでおろす。
「今日はこのくらいにして帰るよ、ルゥ」
お客さんがウィンクする。
女性が黄色い声を上げるようなしぐさだ。
けど、残念でした、軟派男さん。わたしにはレオンがいるんだよ。
ぜったいに、ぜったいに、ぜーったいに惚れたりしないから。
「今回はキミを口説くのをあきらめるけど、せめて名前だけでもおぼえてよ」
「名前ですか……」
「俺の名前は――」
そこでいったん言葉を止める。
それから彼はニヤリと笑みを浮かべてこう名乗った。
「ゼロ」
緊張が走る。
わたしとレオンは同時に目を見開いた。
「『また会おう』。聖女とその執事さん」
ゼロと名乗ったその人はウィンクしつつ手をひらひらと振ってお店を後にした。
ゼロ……、怪盗ゼロ……。
まさか……。
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