6-6:オリオンオークション
オリオンさんはこう言う。
顧客から預かった商品が盗難に遭えばオリオンオークションの評判に傷がつく。
しかし、逆に、あの有名な怪盗ゼロから商品を守ったのならオリオンオークションはますます評判がよくなるだろう。
それでもわたしは納得のいかない顔をしていたから、オリオンさんはこんな提案をしてきた。
「わかりました。それではルゥさん、こうしましょう。『花畑』のオークションでは、競り落とされた金額の2割が手数料として我がオリオンオークションの物になります。その手数料を今回は孤児院に寄付いたします。全額」
わたしは思わず「えっ!?」と驚いてしまった。
「そ、それだとオリオンオークションの利益はなくなっちゃうんじゃ……」
わたしも仮にもお店の経営者。
利益を得るのがどれだけ大変かは知っている。
けれど、オリオンさんはにこにこしている。
「確かに、お金としては銅貨の一枚もいただけませんが、有名な絵画を取り扱ったという実績と、怪盗ゼロからそれを守ったという事実はオリオンオークションの名を上げてくれます。むろん、寄付もただの善意ではありませんよ。わたくしも商売人ですので」
「寄付をすれば税がいくらか免除されるのです。ルゥさま」
そういうことか。
めぐまれない孤児にお金がいくのなら納得できる。
レオンもわたしにうなずいている。
怪盗ゼロから絵画を守ることは結果としてみんなの利益になる。
わたしは決心した。
怪盗ゼロを捕まえよう。
そして『刻のアトリエ』に帰ってきた。
「レオン。わたし、がんばるよ」
「その意気です、ルゥさま。ちなみに僕も泥棒退治なら心得ていますので」
「あ、そうなんだ」
レオン、ほんとになんでもできるんだね……。
またわたし、足手まといにならなければいんだけど。
「では、僕は夕食の食材を買いに行ってきます。お一人で店番できますか?」
「もー、子供じゃないんだよー。それくらいできるって」
「そうでしたね。では、行ってきます」
レオンが出かけた。
店がしんと静まり返る。
わたしはカウンターの前に座って店番をすることになった。
お客さん来るかな。
まもなく日が暮れる時刻。
この時間はあまりお客さんはこない。
ところがしばらく待っていると、入口の扉ががちゃりと開いた。
わたしはあくびをして思いきり開いていた口を慌てて抑える。
「い、いらっしゃいませっ」
「やあ」
入ってきたのは若い男性。
年齢は20歳前半くらい。
とても背が高く、顔立ちも端正な美青年だ。
「へー、ここがウワサの『刻のアトリエ』かー」
お客さんは店を物色しだす。
陳列棚に置かれた小物をひとつひとつ見ている。
実は最近、お店では小物を売るようになったのだ。
わたし『刻星術』の訓練がてら、壊れた状態から元通りに時間を『戻した』小物を売るようにしたのだ。
ぜんぜん売れないし、わたしも売れるとは思っていない。
単にお店っぽい装飾になるかなと思って並べているのだ。
ちなみに『刻星術』で素材の状態から時間を『進めて』作ったパンも売っている。
こっちは近所の顔なじみの人が買ってくれている。




