6-5:オリオンオークション
翌日、わたしとレオンは依頼を断ろうとオリオンオークションに足を運んだ。
……ところが。
「おお! 竜を討伐せし聖女さま! ようこそお越しになりました!」
支配人のオリオンさんがかなり大げさに出迎えてくれた。
こ、断りづらい!
わたしとレオンは目配せしあう。
「ルゥさんがいれば怪盗ゼロなど恐れるに足りません。こざかしき悪党など、聖女さまの御威光に焼かれて灰となるでしょう!」
わたしの手を取ってぶんぶん上下に振る。
演劇めいた大仰なセリフだ。
この状況で「すみません、やっぱりやめます」と誰が言えるだろうか。
「ま、まかせてください……。あはは……」
泥棒を捕まえるなんて無理だよ!
心の中で叫んだ。
それからわたしたちはオリオンさんに保管庫に案内された。
分厚い扉を開けた先にはオークションに出品する美術品の数々が置かれていた。
「こちらが怪盗ゼロの狙う絵画、マーガレット・ノキアの『花畑』です」
豪華な額縁にその油絵『花畑』は飾られていた。
その題名どおり、美しい花畑が色鮮やかに描かれている。
芸術の価値なんてろくにわからないわたしでも、その美しさに見とれてしまった。
「これが『花畑』……。間近で見ると本当に美しいですね」
レオンが小声で言う。
この『花畑』はとある貴族が所有しているもので、近々オークションにかけられるという。
マーガレット・ノキアはわたしでも知っている有名な画家。
彼女の描いた絵画はどれもとんでもない価値がついている。
有名な作品では、それ一枚で一国の財産に匹敵するとまで言われている。
「ちなみに、この絵画の所有者は?」
「イステル卿です」
「イステル卿……」
レオンが眉間にしわを寄せる。
「悪い人なの?」
彼の耳元でささやく。
「あまり評判はよろしくありませんね」
イステル卿は法外な税を課して領民から財産を根こそぎ奪い取り、私腹を肥やしている貴族だとレオンは説明する。
私的な兵士も多数抱えており、不満を持つ領民を平気で罰するとのこと。
そのため領民のみならず、諸侯からの評判は最悪なのであった。
レオンは『あまり評判はよろしくない』と言ったが、かなり控えめな言いかただ。
これじゃどっちが悪党かわからない。
「怪盗ゼロが狙うのも当然ですね」
「もしかして、盗まれたほうがよろこばれたりするのかな」
「そうでしょうね」
間接的に、わたしはそんな人間のために戦おうとしているのか。
ますます気が進まなくなった。
「お客さまは皆、平等です。人となりは関係ありません」
わたしの心情を見抜いたオリオンさんがそう言った。




