6-3:オリオンオークション
「お兄さま、ルゥと結婚しましょうよ」
「ふん」
ギュスターヴさんはえらそうにふんぞり返っている。
……その顔はこころなし、朱色に染まっているように見える。
「ま、まあ、田舎のイモ娘など誰も結婚したがらぬだろう。ならばしかたあるまい。俺の妻にしてやるのもやぶさかではない」
目をそらしながらそう言った。
ギュスターヴさん、照れてる……?
わたしは自分の体温が急激に上昇していくのを感じる。
これも一応、愛の告白。
わたしは男性にそういう言葉をかけられたことがなかったので、動揺してしまっていた。
ちらりと横を見る。
そこにいるのはレオン。
わたしはレオンがどう思っているのか気になって仕方がなかった。
彼はいつもどおり微笑みを見せている。
そうだよね……。
わたしは心のどこかでレオンが結婚に反対してくれるのを期待していた。
彼から見てもわたしなんてしょせん田舎貴族のイモ娘なのだろう。
「お、俺と結婚するか……?」
そう思いきや、レオンが微笑みを保ったままこう言い放った。
「ダメです」
わたしとギュスターヴさんとミント――三人同時に驚愕する。
冷静なその一言から確固たる怒りが感じられた。
「ギュスターヴさまはルゥさまにふさわしくありません。あきらめてください」
「執事の分際で口をはさむか!」
「はい。はさみます」
レオンが怒ってる。
笑みを保ったまま。
激怒したギュスターヴさんはレオンをにらみつける。
レオンはひるまず、その目から真っ向から立ち向かっている。
ミントはあわあわと困惑している。
「ルゥさまは渡しません」
「自分の所有物のような言い草だな」
「そんな恐れ多い。しかし、少なくともあなたには渡せません」
「け、けんかはおよしになって!」
「ミントは黙っていろ」
にらみあう二人。
憤怒した竜のごときギュスターヴさん。
静かな川の流れのようなレオン。
「僕にはルゥさまにしあわせになってもらいたいと願っています」
「俺にはできぬと?」
「はい」
「俺を愚弄したな」
「正当な評価をしたまでです」
「剣を持て。表に出ろ。決闘だ」
「二度も負けては恥を重ねるだけですよ」
「もーっ! やめて!」
これ以上はいけないと判断したわたしは、にらみ合う二人の間に割って入った。
二人ともはっと我に返る。
「わたし、まだ結婚は考えてないよ。当事者をほったらかして熱くならないで」
「す、すみません、ルゥさま。僕としたことが冷静さを欠いていました」
「俺もイモ娘と結婚など断じてしない」
「ごめんなさい、ルゥ。わたくしが余計なことを提案したせいで」
「んーん。ミントは悪くないよ」
とりあえず決闘にはならずに済んだ。




