5-14:オーレリウムの花
「こちらの方は?」
オリオンさんの視線がレオンを向く。
「この人はわたしの――」
そこまで言って言葉に詰まる。
わたしの執事。
そう言えばいいのに、なぜか言葉に出せなかった。
「ああ、パートナーのレオンさんですね。『刻のアトリエ』は若い男女で経営していると聞きました」
「はい。ルゥさまの執事をしております」
代わりにレオン自身があいさつした。
わたしは気まずくなって二人から視線をそらした。
レオンはわたしの……。
なんて言えばよかったんだろう。
やっぱり――パートナー?
それからオリオンさんの支配人室に案内された。
ルーグ家の書斎よりひと回り大きな部屋だ。
ここで取引先と商談をしているのだろう。執務机の他にテーブルとソファもある。
わたしとレオンは並んでソファに座り、テーブル越しにオリオンさんが座った。
「事情はカシマール先生の手紙で知っております。黒魔石をご所望とのこと」
「どうしても必要なんです」
「オリオンさまは黒魔石を持っていらっしゃるのですか?」
「ええ。我がオリオンオークションの所有物に黒魔石があります。本来は競売にかけるのですが、よろこんでお譲りいたしますよ」
「本当ですか!?」
すごい!
カシマール先生、どんな手紙を書いたのかしらないけど、譲ってもらえるなんて!
と、ぬかよろこびも束の間、オリオンさんはこう続けた。
「依頼解決のあかつきには」
……依頼?
なんの話だろう。
機嫌がよさそうな笑顔のオリオンさん。
「『怪盗ゼロ』を捕まえていただけるなんて、本当に『刻のアトリエ』はなんでも解決していただけるのですね」
「……えっと」
わたしとレオンはあ然としながら顔を見合わせる。
オリオンさんはこう言う。
近々、オリオンオークションで目玉商品である、とある絵画が競売にかけられる。
それを『怪盗ゼロ』という泥棒が盗みにくると予告状が送られてきたのだ。
怪盗ゼロは資産家の間では有名で、裕福な者たちから財産を盗み、それをお金に換えて貧しい人たちに分け与えている義賊なのだ。
どれだけ厳重な警備であっても怪盗ゼロは苦も無くすり抜け、お宝を盗んでいく。
オリオンオークションもついに今回、目をつけられた。
そんなとき、オリオンさんの古い友人であるカシマール先生が、黒魔石の譲渡を条件に助っ人をよこしてきた。
それがどうやらわたしとレオンらしい。
「竜と倒したというお二人がいればもう安心です。『怪盗ゼロ』の悪行もこれまでですね」
竜は倒してないんだけどな……。
「レオン」
わたしはレオンに顔を近づけてひそひそと話す。
「なんか、とんでもない話になってない?」
「カシマール先生が手紙に書いたのですね」
【読者の皆様へのお願い】
現時点の評価で構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価と【ブックマークに追加】をお願いいたします。
執筆活動の大きな励みになります。
どうかよろしくお願いいたします。




