5-13:オーレリウムの花
そういわけでわたしとレオンは王都にあるオリオンオークションへと足を運んだ。
繁華街の一等地に建つ、とても豪華な建物。
しり込みしてしまう。
ルーグ家も一応は貴族だけど、財産なんてほとんどない田舎貴族。
領地だって小さな村がひとつあるだけで価値は低い。
ブルジョワと呼ばれる平民の資産家のほうがよほどお金持ちだ。
「は、入っていいのかな……?」
「カシマール先生を信じましょう」
オリオンオークションの中へと足を踏み入れる。
中もとてもきらびやかな装飾が施されている。
オークションは裕福層を相手にしているから、こんなに豪華なのだろう。
「オリオンオークションへようこそ。本日はどういったご用件で?」
従業員の人がやってきて要件を尋ねてくる。
わたしがあわあわ動揺しているとレオンが落ち着いた調子でこう言った。
「支配人のオリオンさまとお話ししたく参りました」
「支配人とですか……」
眉をひそめて不審がる従業員。
しかし、レオンがカシマール先生の招待状を渡すと態度を一変した。
上客を相手にするときの媚びた表情だ。
「少々お待ちください。支配人を呼んできますので、しばらくロビーでおくつろぎを」
従業員がいなくなると、わたしとレオンはロビーに設けられた席に腰を下ろした。
すぐに女性の従業員がやってきてコーヒーを淹れてくれた。
「き、緊張するね。大人の場所だよここって」
「そうですね」
にこりと笑うレオンはぜんぜん緊張していない。
落ち着きなくあたりをきょろきょろするわたしとは大違いだ。
うーん、さすが王子さま。
「そういえばレオン。さっき『支配人のオリオンさま』って言ってたけど、よく支配人の名前がわかったね。オリオンオークションを知ってたの?」
「ええ。王都で最も有名なオークションですから」
裕福層を相手にするオークションの中でも、オリオンオークションは最も格式高いオークション。
珍品、名品が競売にかけられ、毎晩とんでもない額のお金が飛び交う。
そうレオンは説明してくれた。
となると、未成年二人組が昼間から尋ねてくるのはかなり怪しいだろう。
実際、対応してくれた従業員はわたしたちを不審そうにしていた。
「僕たちはちゃんと理由があってここに来ているのです。堂々としていればよいのです」
「お待たせいたしました」
わたしたちの前に支配人が現れた。
「わたくし、オリオンオークションの支配人をしておりますオリオンと申します。どうぞお見知りおきを」
この人がオリオンさん……。
外見の年齢は20代くらい。どう高く見積もっても30代前半だ。支配人なのにとても若い。
褐色の肌と金色の髪は、南国の王子さまを連想させる。
「ル、ルゥ・ルーグといいますっ。ここここんにちはっ」
「『刻のアトリエ』のルゥ・ルーグさんですね。その繁盛ぶりはわたくしの耳にも届いております。うわさによると時間を操る魔法が使えるとか」
「え、えへへ……」
褒められてしまった。
それにしてもオリオンさん、とても優雅なしゃべりかたをする。




