5-12:オーレリウムの花
「王都では毎夜、オークションで希少品の売買が行われている」
有名な作家の絵画、彫刻などの美術品や骨董品、宝石や装飾品、古代遺跡から発掘された遺物など。
お金を持て余した富豪たちがこぞってそれらの品を競り落としているのだとカシマール先生は言う。
「オークションで出品されるものの中に魔宝石もある、というのですね?」
「そのとおりだレオン」
カシマール先生がニヤリと笑う。
「しかも、今度出品されるのは、膨大な魔力を宿した規格外級の魔宝石だ。魔力が凝縮して黒くなったそれは『黒魔石』と呼ばれている。黒魔石さえあれば1000年の時間を進めることも可能かもしれないぜ」
黒魔石!
それがあればオーレリウムの花を咲かせられる!
「行こう! レオン!」
「し、しかし、ルゥさま……」
オーレリウムの花を咲かせられる方法が見つかったにもかかわらず、レオンの表情は浮かない。
「オークションで品物を競り落とすにはお金が必要です。先立つものが僕たちにはありません」
「安心して、レオン。わたし実は毎日コツコツ貯金してるの。それを今こそ解き放つ!」
「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべたレオンが助けを求めるような視線をカシマール先生に送っている。
カシマール先生が「やれやれ」と大げさに肩をすくめる。
わたし、また変なこと言っちゃったのかな……。
「イモ娘ちゃん。ちなみにその貯金とやらはいくらくらい貯まったんだ?」
わたしは貯金しただいたいの金額を教える。
するとレオンとカシマール先生は苦笑したまま顔を見合わせた。
「うーん、ちょっとばかし足りないな」
「あといくらくらい必要ですか?」
「競り落とすにはだいたいあと100000倍は必要だな」
「ええーっ!? ぜんぜん『ちょっと』じゃないですよー!」
思わず声を出してしまった。
「ホントなの? レオン。カシマール先生、またイジワル言ってない?」
「えっと、カシマール先生のおっしゃるとおりかと」
がく然とする。
3か月で貯めた額の100000倍なんて、一生かかっても貯められないよ……。
わたしはひざから崩れ落ち、床に手をついてしまった。
「研究所の予算でも競り落とせない額だ。イモ娘ちゃんには到底無理だな」
「そんな無理な話教えないでくださいよ……」
「落ち込むには早いぞ」
カシマール先生が便箋にペンでさらさらとなにかを書き始める。
書き終えると折りたたんで封筒に入れてわたしにくれた。
「俺からの紹介状だ。腕利きの魔法使いとその従者だって書いておいてやった」
「えっと……」
話が見えない。
なんの紹介状なのだろう。
「お前たち、今から『オリオンオークション』に行ってこい。詳細はそこで聞け」
「カシマール先生。僕らになにをしろと?」
「お前たち『刻のアトリエ』とかいうのやってんだろ? その依頼。つまりは仕事だよ」




