5-11:オーレリウムの花
危うくわたし自身の魔力を根こそぎ奪われるところだった。
気絶する寸前でどうにか留まれた。
「弱りましたね。魔宝石を用いてもなお魔力が足りないとは」
「ごめんねみんな。また失敗しちゃった」
カッコ悪いな……。
みんなの顔をまともに見れない。
「しかたあるまい。ままならぬことはままあるものだ」
意外にも最初になぐさめてくれたのはギュスターヴさんだった。
逆に絶対ののしられると思ったのに。
「我が妹のために尽力したという事実は評価に値する」
「お兄さまの言うとおりですわ。ありがとう、ルゥ」
くやしい。
未熟さを痛感する。
ほめられるなら、成功したときにほめられたい。
翌日、再び王城の研究室に足を運んだ。
王城には門番がいたけれど、カシマール先生の知り合いだと言うと、しばらくした後、中に入れてくれた。
「ルゥさま。ここは堂々と『聖女のルゥ・ルーグです』と言えばよろしいのでは」
「いやー、それは恥ずかしいよー」
一族に箔をつけるために、勇者の子孫だとか神に選ばれし聖女だとか国一番の剣士だとか自称する貴族は多いらしい。
聖女と名乗ったところでそういう有象無象の一人としか見られないだろう。
研究室に入り、カシマール先生に会った。
そして昨日の出来事を伝えた。
「やっぱりダメだったか」
「『やっぱり』?」
カシマール先生はわたしが失敗するのを予想していたようだ。
「なにせ1000年も時間を進めるんだ。あれ一個じゃまだ魔力は足りない気はしていたんだよ」
「それならもっといっぱいください。今度はちゃんとお金も払います」
いくらかかるかわからないけれど、とりあえず言ってみた。
ところがカシマール先生は腕組みして悩んでいる。
「結論から言うと――ダメだ」
魔宝石は王国の所有物。特殊な鉱脈から採掘されるもので、月のかけら同様、希少品。個人的な事情で安易に使えるものではないし、おいそれと他人に譲れるものでもない。前回はカシマール先生の依頼の報酬という特例だったのだ。
そして今、大規模な魔法の研究を実施することになっていて大量の魔宝石が必要で、そもそもわたしたちに譲れる分はないのだ。
――と、カシマール先生が説明してくれた。
「昨日くれてやったあれも、研究用だってごまかしたんだ」
「ふむ、そうだったのですね」
かくなるうえは、ツルハシ持って鉱山に行くしかない。
「ツルハシってどこに売ってるんだろう」
「ル、ルゥさま……?」
「ま、がんばって掘り当ててくれ。俺はもっと手っ取り早い方法を知ってるがな」
「それを先に言ってくださいよ!」
「僕たちに教えてください。その『手っ取り早い方法』を」
「オークションだ」
オークションって、競り合って一番高い値段を付けた人が商品を買えるあれのことだよね。




