5-8:オーレリウムの花
話によると、カシマール先生は魚釣りが趣味らしい。
休日に王都の外に出かけて湖で釣りをするのが人生で唯一の楽しみだとのこと。
ところがある日、カシマール先生に悲劇が起こった。
子供の世話もせずに研究ざんまい釣りざんまいの甲斐性無しの夫に腹を立てた奥さんが、釣り竿を折ってしまったのであった。
「失礼ながらカシマール先生。結婚していらっしゃったのですね」
「ホントに失礼なこと言うやつがあるか」
失礼だけどわたしもレオンと同じ感想だった。
カシマール先生みたいな人でも結婚できるんだね。
しかも子供もいるだなんて。
とにかく、釣り竿を折られたカシマール先生は人生で唯一の楽しみを奪われてしまったのであった。
わたしへの依頼は釣り竿の修復。
たしかに、釣り竿を直すのなら簡単だ。『刻星術』を使って釣り竿の時間を『折れる前』まで戻せばいいだけだから。
「でも、カシマール先生。それって根本的な解決にはならないんじゃないですか?」
「ど、どういうことだよ……」
釣り竿を直したら、カシマール先生はまた釣りに出かけてしまう。
家族をほったらかして。
そうすればまた奥さんが釣り竿をへし折ってしまうだろう。
「家庭を持っているなら、一人で釣りをするよりも家族とのふれあいを大事にすべきですよ」
「ルゥさまのおっしゃるとおりでございます」
「うぐ……」
図星だったらしい。
カシーマル先生は腹に一撃くらったような苦しそうな顔をになる。
「け、けどなあイモ娘ちゃん。息抜きってのも必要だろ?」
「限度ってものがありますけどね」
「うぐ……」
わたしはカシマール先生にもう一撃くらわせた。
ひょうひょうとしてつかみどころのない人だけど、ついに弱点を見つけてしまった。
レオンが挙手する。
「僕から提案があります。週末は家族で釣りに出かけたらいかがでしょう」
カシマール先生は顔をしかめる。
「わかってねーなー。俺は口うるさい女房ややかましいガキどもから離れて過ごしたいんだよ」
「えー。家族が嫌いなんですかー?」
「嫌いじゃねえけど……」
面倒くさそうボサボサ頭をかくカシマール先生。
「男には独りになる時間ってのが必要なんだよ。なあ、レオン」
「さ、さあ……。僕には理解しかねます」
「おいっ!」
釣り竿を直すけど、条件をつけた。
釣りは家族と一緒に行くこと。
カシマール先生はしぶしぶだけど条件を受け入れてくれた。
机に折れた釣り竿を置く。
わたしはその前に立ち、ステッキをかざして精神を集中させた。
釣り竿の『時間』よ戻れ。
心の中でそう唱えると、身体からステッキの先端に魔力が流れ込んでいく。
先端の月のかけらに魔力が集中し、まぶしい光が放たれる。




