5-7:オーレリウムの花
ギュスターヴさんは部屋を後にした。
……。
それにしても『イモ娘』って――ひどい!
わたしは遅れてやってきた怒りを抑えきれず、ほっぺたをふくらませた。
「イモ娘かー。あのギュスターヴにしては愛嬌のあるあだ名じゃないか。俺もこれからはそう呼ばせてもらうぜ『イモ娘』ちゃん」
「や、やめてくださいよカシマール先生っ」
「ルゥさま。おイモというのは野菜の人気者です。ギュスターヴさまはルゥさまをほめたたえているのですよ」
それは絶対違うと思う。
こうなったらなにがなんでもオーレリウムの花を咲かせて、イモ娘なんてあだ名を撤回させてやる。
「レオン。ギュスターヴさんのお屋敷に行こう! もう一度挑戦するよ!」
「いけません、ルゥさま。1000年も時間を進めるのは危険です」
「そうだぜ。二度と目を覚まさなくなってもおかしくないんだからな」
「で、でも……」
くやしい。
ギュスターヴさんに嘘つき扱いされたままなのは。
なにがなんでも見返してやりたいし、ミントさんもよろこばせてあげたい。
「どうにかならないんですか? カシマール先生」
「『どうにかならないか』か……」
あごに手を添えて考え込むカシマール先生。
なにかありそうなそぶり。
もしかして、なんとかなるのかな?
「オーレリウムの花を咲かせられなかった原因はイモ娘ちゃんの魔力が足りなかったからだ。魔力が途中で枯渇したから『刻星術』が中断されて、イモ娘ちゃんは気絶したわけだ」
つまり、魔力が足りれば1000年時間を進められる。
「教えてください。魔力を増やす方法を」
「いいぜ。ついてきな」
わたしとレオンはカシマール先生についていって研究室へとやってきた。
カシマール先生は棚に置かれていた赤い宝石を手に取り、わたしたちに見せる。
「この『魔宝石』には魔力が蓄積されている。これを持っていれば足りない分の魔力を補える」
魔宝石……。そんな便利なものがあったなんて。
よろこびかけたけれど、すぐ不安になった。
月のかけらのときと同じで、無償で譲ってくれるわけじゃないんだろうな。
今度はどこを冒険すればいいのだろう。
わたしの表情で察したらしく、カシマール先生は「安心しろ。今回は研究所にある魔宝石を譲ってやる」と言った。
「わーいっ」
「ただし、条件がある」
「えっ! やっぱりなにかあるんですか!?」
「そう身構えるな。イモ娘ちゃんならかんたんにできることさ」
カシマール先生は研究室の奥から妙なものを持ってきた。
長い棒が二本。
もともとは一本の棒だったけど、真ん中で折れてしまったようだ。
「レオン。これなに?」
「釣り竿でございます。魚を釣るための道具です」
「イモ娘ちゃん、釣り竿も知らないのかよ」
釣り竿がどうこうよりも、わたしはさっきからずっと『イモ娘ちゃん』と呼ばれているほうが気になってしかたなかった。
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