5-6:オーレリウムの花
魔力が尽きるなんて考えてもいなかった。
よく考えればそうだよね。1000年も時間を操作するなんてとっても魔力を使うよね。
「あっ、そうだ。オーレリウムの花は咲いたの?」
「残念ながら……」
「だよねー。あはは……」
そういうわけで、今回の件は記念すべき仕事の初失敗となったのであった。
あーあ、あのいばってるギュスターヴさんをぎゃふんと言わせる絶好の機会だったのに。
逆にあの人に合わせる顔がない。
なんて嫌味を言われるのやら……。
「起きたか」
「げっ」
なんとギュスターヴさんがわたしの前に現れた。
ギュスターヴさんは不愉快そうに眉をひそめる。
「なんだ、その『げっ』というのは」
「な、なんでもないです……」
「ギュスターヴさま。今日もお見舞いに来てくださったのですね」
レオンがそう言う。
今日も……?
もしかしてギュスターヴさん、毎日わたしのようすを見に来てくれてたの……?
「仕事のついでだ」
「仕事……?」
「ここは王城の中です。ルゥさま」
「研究室の休憩部屋だ」
わたし、王城にいたんだ。
「ギュスターヴさまもルゥさまを心配してくださっていたのですよ」
「勘違いするな。俺が田舎のイモ娘を心配するとでも思ったか。うぬぼれるなよ、ルゥ・ルーグ」
イ、イモ娘……。
「それにしても、7日も眠ってようやく起きたか。とんだねぼすけだな」
「『目が覚めて安心した』って素直に言えないのか、お前は」
カシマール先生が呆れて肩をすくめた。
「ごめんなさい。ギュスターヴさん。オーレリウムの花を咲かせられなくて」
「ふんっ。はなからお前のイカサマ手品などに期待はしていなかった」
さっそく容赦のない嫌味攻撃。
レオンが珍しくむっと怒った表情になる。
「ルゥさまをけなすのはやめてください」
「執事ごときが俺にたてつくか」
「違うよ! レオンは――」
レオンは本当は王子さまなんだから。
――と言いかけて慌てて口をつぐむ。
レオンがグレイス王家の人間なのは秘密だった。
あぶないあぶない……。
「こいつはなんだっていうんだ」
「レオンは……。えーっと、料理がとっても得意なんだよ!」
「だ、だからなんだというんだ……。ならコックにでもなれ」
変な言動をしたせいで不審がられてしまった。
「ま、とにもかくにもこいつが起きてよかったってことにしておけ」
「ありがとうございます、カシマール先生。お部屋を貸していただいて」
「ま、気にするな」
「ルゥ・ルーグ」
ギュスターヴさんがわたしを指さす。
「あとで俺の屋敷に来い。ミントがお前を心配していた。ミントは心やさしい娘だからな」
「うん。わかった」
「じゃあな」




