5-5:オーレリウムの花
意識が徐々に戻ってくる。
深い海の底から身体が浮き上がってくるような気分。
重いまぶたをどうにか開ける。
わたしはベッドで眠っていた。
見慣れない柄の天井。
頭を右へ左へ傾けて、部屋のようすを見渡す。
時計と絵画が飾られている程度の殺風景な部屋だ。
生活感が感じられない。
カーテンがかかっていて窓の外は見えない。
どこだろう、ここ。
自分の部屋ではない、誰かの部屋。
わたし、どれくらい寝てたのかな。
上体を起こす。
ひどくだるくて、100年以上の眠りから覚めたような心地。
部屋の扉が開く。
「ルゥさま!」
「レオン!」
部屋に入ってきたのはレオンだった。
レオンは大慌てでわたしのもとへ駆け寄る。
「よかった。目覚められたのですね」
ほっと安心したようすの彼の目は涙で潤んでいた。
またレオンに心配かけちゃったな。
わたしは罪悪感をおぼえた。
と、その瞬間、思いもよらぬことが起きた。
レオンがいきなりわたしを抱きしめたのだ。
しかも、結構強い力で。
「レ、レオン……?」
「――ハッ」
慌てて腕をほどくレオン。
「も、申し訳ありません! つ、つい……」
「い、いいよ……。別に嫌じゃないから」
むしろうれしいくらい。
で、でも驚いた。
礼儀正しいレオンがいきなり抱きしめてくるなんて……。
わたしは恥ずかしくなってレオンから視線をそらしていた。
レオンも同じく恥ずかしそうにしていた。
「と、ところでわたし、どれくらい寝てたの?」
「7日です」
「ええーっ!?」
7日も眠ってたの!?
どうりで身体が重いわけだ。
「心配していました。もう、二度と目覚めないのかと不安でしかたがありませんでした」
「ご、ごめんね? わたしってばまたドジしちゃったんだね」
そもそも、どうしてわたしは眠ったんだっけ。
おぼろげな記憶をたどる。
えーっとたしか、ギュスターヴさんのお屋敷に行って、そこにあるなんとかの花……、あ、オーレリウムか。そのオーレリウムの花を咲かせようと『刻星術』を使ったら、いきなり意識が遠のいて気絶しちゃったんだ。
「魔力を使い果たしたんだ。このマヌケ」
と言ったのは、部屋の扉の前にいた男の人だった。
鋭い眼をした黒髪の青年。
王城で働く研究者のカシマール先生だ。
カシマール先生はわたしたちのそばまで来ると、わたしの頭にコツンとこぶしを乗せた。
呆れた表情をしている。
成績の悪い生徒を相手にする先生みたいだ。
「詳しい話はレオンから聞いた。1000年も時間を進めようとしたら、そりゃ気絶するに決まってるだろ」
「はううう……」
「少しは加減ってものを知っておけ」




