5-4:オーレリウムの花
「ルゥさん、レオンさん。どうぞこちらへ」
ミントさんに案内されてわたしたちは花園の奥へと進む。
色とりどりの花が咲き乱れる花園の中心。
そこの花壇だけ花が植えられていなかった。
にもかかわらず、他の花壇とは違った立派な意匠が施されている。
「こちらをご覧ください」
よく見るとその花壇には一輪だけ花があった。
しかし、その花はまだつぼみで、花弁が開いていない。
まだ開花する季節じゃないのかな。
「これは我が家が代々育てている花、オーレリウムといいます」
「代々育てている?」
「オーレリウムは100年、ずっとここで育てられていると言い伝えられています」
「俺の父上も、おじいさまもひいおじいさまもオーレリウムの存在を知っている。本当に100年間、ここにあるのだ」
すごい。100年も生きている花があるんだ。
だからこんな立派な花壇に植えられているんだね。
「オーレリウムはとても美しい花を咲かせると言われています」
「そうなんだ。いつ咲くの? ミントさん」
「1000年後です」
「……え?」
聞き間違えかな?
「オーレリウムの花が咲くのは1000年後と言われているのだ」
ギュスターヴさんがそう言った。
「1000年後……。それはまた気の遠くなる月日でございますね」
「わたしたちが生きている間には見れないんだね」
「うむ。だから貴様らに依頼するのだ」
ギュスターヴさんがびしっとわたしを指さす。
「貴様、確か『刻星術』とやらで時間を操れるらしいな。にわかには信じられんが、その魔法が本物であるのなら、オーレリウムの時間を1000年進めて花を咲かせろ」
そう言われてようやく合点がいった。
だからわたしたちが呼ばれたのか。
「お願いします。わたくし、どうしてもオーレリウムの花を見てみたいのです」
「ミントの願いだ。今さら断るのは許さんぞ」
「わかった。いいですよ」
と安請け合いしてしまったが、成功するのか正直心配だった。
お店の仕事で今まで何度も『刻星術』で時間を進めたり戻したりしていたけれど、1000年もの時間を操った経験は一度として無い。
でも、なにごとも挑戦だ。
時間を1000年進めてオーレリウムの花を咲かせよう。
オーレリウムの前に立つ。
ステッキの先をかざす。
目を閉じ、精神を集中させ、身体に流れる魔力を操る。
魔力をステッキの先に集める。
そして唱えた。
「時間よ進め!」
その瞬間、頭が急にぼんやりしだした。
突然の寒気が襲ってくる。
意識が遠のく。
視界がみるみる暗くなる。
「ルゥさま!」
レオンの声が遠い。
意識を保っているのが限界になったわたしは、眠るように目を閉じた。




