4-9:竜の問いかけ
月の石は真っ白なはずなのに、少し見る角度を変えただけでまた別の美しさを感じられた。
この石は、わたしとレオンが困難を乗り越えたあかし。
なんだか大人になれたような、誇らしい気分になれた。
「美しい石ですね」
「うん。夜空に浮かんでいるときみたいに光ってたらもっときれいなのに」
「あれは太陽の光を受けて輝いているそうですよ」
「……へ?」
レオンの言っている意味が理解できなくて、わたしは間抜けな声を出してしまった。
「夜空に太陽は無いよ? レオン」
「たしかに夜になると太陽は隠れますが、それでも光は届いているそうです。無数にちりばめられた小さな星たちも太陽の光で輝いていると聞きました」
「……なるほどなるほど」
実はぜんぜん理解できなかったけど、わかったフリをしてうなずいた。
「レオンって物知りだね」
「恐縮です」
「レオンは家事は万能だし、戦いもできるし、しかも頭もいいなんて。わたしにはもったいないかも」
「いえ、逆です。僕のすべてはルゥさまのためにあるのです」
な、なんかすごいこと言われた……。
レオンは恥ずかしさのかけらも見せずに、誇らしげな面持ちをしていた。
「救国の聖女に仕えることを僕は誇りに思っています」
その言葉を聞いたわたしは胸にちくっとトゲが刺さるのを感じた。
たまらなく不安な気持ちになり、ついこんな質問をしてしまった。
「もしも、もしもだよ? わたしが実は本当に『偽聖女』だったら?」
「そんな『もしも』はありえません」
「それがありえたとしたら……?」
きょとんとしているレオン。
わたしが変な質問をしてしまったせいだ。
それから彼はふっと笑みを浮かべてこう答えた。
「ルゥさまが何者であろうと、僕はあなたのそばから離れません」
わたしってばズルいな。
こういう答えを聞きたいために彼を困らせてしまった。
それでもわたしにのなかでもやもやしていた不安は一瞬にしてなくなった。
「てへへ。ありがと、レオン。ずっとわたしのそばにいてね」
「はい。共に歩んでいきましょう」
太陽が沈み、夜空には月が昇っていた。
列車は一定の速度で走っている。
がたんごとんと揺れるのが心地よい。
流れる景色を眺めるのも楽しい。
夜空と草原の光景はきれいな絵画のようだ。
ばたっ。
なにかが落ちる音がして足元を見ると、本が落っこちていた。
レオンが読んでいた本だ。
「レオン、落としたよ。……あっ」
本を手にして顔を上げると、レオンがすやすやと眠っているのに気付いた。
レオンもやっぱり眠かったんだね。
彼が寝ているのをいいことに、わたしは彼の顔をまじまじと眺める。
整った顔立ち。
まさしく王子さまと呼ぶにふさわしい。
彼を起こさないよう、空いている隣の座席にそっと本を置く。
それからわたしは自分の本を開いた。




