4-8:竜の問いかけ
「うむ。月のかけらだぞ。悪くない」
「じゃ、じゃあこれにするねっ」
手のひらから月のかけらの魔力が伝わってくる。
ついに月のかけらを手に入れたのだ。
胸にこみあげてくるものがある。
そのとき、ふいに視界がじんわりとにじんだ。
「ル、ルゥさま!?」
「えっ?」
レオンが困惑した表情をしている。
どうしてだろう。
レオンが慌ててハンカチを出し、わたしの目に当てた。
にじんだ世界がもとに戻る。
「どうして泣いているのですか?」
「泣いてる……?」
ああ、そうか。わたし、泣いちゃったんだ。
これでやっと『刻のアトリエ』を再開できると思ったら。
「どこか痛いのですか?」
心配そうにわたしの顔を覗き込んでくるレオン。
きっとわたし、涙のせいでひどい顔をしているのだろう。
今はあんまり見られたくないな。
レオンを心配させまいとわたしは笑顔をむりやり作った。
「うれしいから泣いてるんだよ」
「そうですか。よかった……」
レオンはほっと胸をなでおろしていた。
「ルゥさまには涙よりも笑顔が似合っていますよ」
「そ、そう……?」
照れくさくてはにかむ。
それからわたしたちはアルタイルにお礼をした。
「ありがとうございます、アルタイル。月のかけらを譲ってくれて」
「時を操る『刻星術』。おぬしならばきっと正しい使い方をするだろう」
「うんっ。みんなのためにがんばります、わたし」
「達者でな」
目的を達成してアシロマ山を下りたわたしとレオン。
村長の家で一泊した翌日、列車に乗って王都への帰路についた。
がたん……がたん……。
列車は揺れながらレールに沿って走る。
心地よい揺れだ。
「ふわぁ」
……はっ!
し、しまった! つい思いっきりあくびをしてしまった!
レオンの前で……。
わたしは慌てて口元を押さえた。
「眠いのでしたら、どうぞお休みください」
レオンに笑われてしまった。
きっとレオンにとってわたしは妹みたいなものなんだろうな。
しょせん、わたしは彼にとって守られるべき存在。
でも、わたしは彼と対等な関係でいたい。
足を引っ張るんじゃなくて、手と手を取り合いたい。
「レオンこそ寝てもいいんだよ。わたし、起きてるから」
「僕は眠くありませんので」
「だーめ。休憩も必要なんだから」
「……では、本を読ませていただきます」
レオンは本を取り出して読みはじめた。
これでよし。
こうでもしないとレオン、ずっとわたしの顔を見てくるもんね。
月のかけらを取り出す。
車窓から差し込む夕日に当たって、白い表面が茜色に染まっている。
きれいな石だな。
ついうっとりしてしまう。
月のかけらを少し傾ける。




