4-6:竜の問いかけ
「魔王ネレイド……。よもやルゥ・ルーグにはネレイドの意思が宿っていたとは。しかし、それならば『刻星術』が使えるのも合点がいく」
魔王ネレイド
それがもう一人の、闇の側面のわたし……。
ネレイドが剣を構える。
「ルゥ・ルーグよ。おぬしが真の聖女であるならば魔王ネレイドにも打ち勝てるだろう。戦うのだ」
わたしの目の前に剣が現れる。
魔王ネレイドが持っているものとは対照的な、真っ白な剣。
それを手にしてみると驚くほど軽かった。
「我は闇……。すべてを食らう暗闇」
魔王ネレイドが躍りかかってくる。
わたしは手にしていた剣を――投げ捨てた。
魔王ネレイドの剣がわたしに振り下ろされる。
……けれど、その刃がわたしに触れようとした瞬間、魔王ネレイドの姿が霧のように消えた。
アルタイルが困惑した声でわたしに問いかける。
「なぜ剣を捨てた。なぜ戦わなかったのだ」
「だって、あれもわたしの中の一部なんでしょ? それを否定なんてできませんよ」
「あれはおぬしの中に宿る闇の側面。否定すべき存在」
「でも、闇があるからこそ星は輝くんです。昼間の空に星は輝かないでしょう?」
「……」
「だから、わたしは闇の自分を否定はしません」
また意識が遠退きだした。
遠退いた意識が完全に途切れる。
そして目を覚ますと、一番にレオンの顔が視界に入った。
「ルゥさま! よかった。目を覚まされたのですね」
「心配かけてごめんね、レオン。わたし、どれくらい寝てたのかな」
「ほんのわずかな時間でしたが、それでも僕は気が気ではありませんでした」
ほっと安心した顔をするレオン。
でも、わたしのせいでレオンはがっかりしなくてはならない。
アルタイルに戦えと言われたのにわたしは戦わなかった。
月のかけらは譲ってもらえないだろう。
「ルゥ・ルーグよ」
わたしたちの前にいる巨竜――アルタイルが口を開く。
「おぬしは実に興味深い」
興味深い?
それってどういう意味だろう。
「アルタイルさま。僕たちに月のかけらを――」
「うむ。おぬしらにくれてやろう。好きなだけ持っていくがよい」
「えっ!? いいんですか? わたし、闇の自分と戦えなかったのに」
「おぬしの選択はワシの想像を超えた。まことに興味深い。新たな可能性を感じさせた。そんなおぬしらの行く手をさえぎるようなマネはせんよ」
「あっ、ありがとうございます! やったねレオン!」
ついに月のかけらを手にすることができる。
わたしは喜びのあまりレオンに抱きついてしまった。
レオンはどぎまぎしたようす。
わたしも恥ずかしさで顔が熱くなっていた。
「ル、ルゥさま。そのようなはしたない行為は控えたほうがよいかと……」
「あ、ごめんね。嫌だった?」




