4-5:竜の問いかけ
「ルゥさま!」
となりにいるはずのレオンの声が遠い。
頭がぼんやりとする。
意識が遠のくのを感じる。
身体から力が抜け、ふらりと倒れる。
それをレオンがとっさに抱きとめてくれた。
「ルゥさま! ルゥさま!」
レオンがわたしを抱いて必死に声をかけてるのに、わたしは返事ができなかった。
そしてとうとうわたしの意識は途切れてしまった。
――そして、急に意識を取り戻した。
目覚めのよい朝みたいにぱちりと目が開く。
目を開けた途端、飛び込んできた光景は夜空だった。
暗い空間に光る星が無数にちりばめられている。
わたしは星空の中を漂っていた。
まだ夢を見ているのだろうか。
どれくらい時間が経ったのだろう。
わたしの感覚だと一瞬の出来事だったけれど。
「目を覚ましたか。ルゥ・ルーグ」
どこからかアルタイルの声が響いてきた。
ということは、夢じゃない。
アルタイルが魔法を使ってわたしをここに連れてきたのだろうか。
「お前は今、自分の心の中にいる。この景色こそ、おぬしの心を表したものだ」
この星空がわたしの心……。
「宇宙というものを知っているか?」
「いえ、初めて聞く言葉です」
「宇宙とは、この星空のこと。終わりがなく無限に広がる世界だ」
わたしはアルタイルの言う宇宙にいるらしい。
無限に広がる世界……。
「つまるところ、おぬしには無限の可能性がある」
「それって、いいことなの?」
「それはおぬしの意思次第。宇宙には無数の光があるが、その本質は闇。無限の闇の中にかろうじて光が灯っている」
たしかに、ちりばめられた無数の星はどれも小さな光だ。
「おぬしの中には無数の光と無限の闇の二つがある。善にも悪にもなりうる可能性がおぬしにはあるのだ」
光と闇。
わたしには正反対の二つが宿っていると村で言われた。
「ルゥ・ルーグ。今よりおぬしに自身の闇を見せる」
目の前の空間がミルクを垂らした紅茶みたいにねじれる。
そしてねじれの中心から誰かが姿を現した。
それは――わたしだった。
うつろな表情をしたルゥ・ルーグが剣を片手に持ってわたしの前に現れた。
彼女が手にしている剣は、柄から剣先まで黒い漆黒の剣。
もう一人のわたしはすべての希望を見失ったような面持ち。
見ているこちらまで悲しくなってくる。
そんな顔、してほしくない。
「我は魔王ネレイド。すべてを滅ぼし、すべてを無に帰す」




