4-4:竜の問いかけ
わたしはアルタイルを説得するため、事情を説明した。
わたしが聖女ということ。
時間を操る『刻星術』が使えること。
その代償を肩代わりさせるために月のかけらが必要なこと。
「『刻星術』……。よもやこの時代の人間がその禁呪を扱えるとは」
「昔の人は使えたんですか?」
「熟達の魔法使いのみが扱える魔法であった。しかし、おぬしも理解しておるだろう。時間を操るというのは重大な危険をはらんでおる。摂理に抗う行為だ。ワシら竜は人間に対し、『刻星術』を使ってはならぬ禁忌の術とさせたのだ」
アルタイルは続けてこう言った。
「だからルゥ・ルーグよ。ここまでたどり着いた力と勇気は称賛に値するが、『刻星術』に関しては諦めよ」
「そんな……」
「『刻星術』は本来、個人的な事情で使ってはならぬのだよ。わかっていただろう」
アルタイルの言うとおり、『刻星術』が危険な魔法だというのは理解していた。
時間を操る魔法なんて、どんなふうにも悪用できる。
わたしが悪用しなくても、そうするのを望むお客さんがいずれやってくるかもしれない。
わかっていたけれど、それを口にしてしまうとわたしとレオンの『刻のアトリエ』が終わってしまう。それが怖くて言えなかったのだ。
レオンといっしょにはじめた『刻のアトリエ』がなくなるなんてイヤだ。
身勝手だろうけど、それがわたしの本心だった。
「ご安心ください、アルタイルさま」
そのとき、レオンが笑顔でアルタイルに言った。
「ルゥさまは心優しきお方。『刻星術』を人々の役に立てるよう、お使いになるでしょう。決して悪用はいたしません」
「ふ、ふむ……」
アルタイルは困ったようす。
「身内のおぬしはそう言えるかもしれぬがのう」
「信じてください。ルゥさまは心優しき聖女なのです。ルゥさまは僕が熱を出して倒れた夜――」
「ま、待て。その話は長くなるのか?」
「少々お時間をいただくかと」
レオンがわたしの魅力を雄弁に語る。
その間、わたしは視線をそらし、熱くなったほっぺたを指でかいていた。
「――というわけで、ルゥさまは『刻星術』を正しく扱えると僕は信じています」
「そ、そうか」
けっこう長い間、レオンは語っていた。
アルタイルはなんだか疲れているようだった。
「ときに執事よ。おぬしは主を好いておるのか?」
「もちろん、好きです」
「レ、レオン!?」
「命をかけて護るべきご主人さまです」
あ、そういう意味の『好き』だったんだね。
ちょっとがっかりした。
「おぬしたちの思いは伝わった。しかし、思いだけでは成し遂げられぬぞ」
アルタイルの目が妖しく赤く光る。
その瞬間、目の前がふっと暗くなった。




