4-3:竜の問いかけ
「白い石で、特殊な魔力を感じるんだって」
そう言われたけど、本当にわたしに見分けがつくのだろうか。
不安を残しながらもわたしは山道を進んだ。
そしていよいよ、頂上に到達した。
……けれど、思いもよらぬものがわたしたちを待っていた。
「ほう、客人とは珍しい。若い人間が二人とはの」
頂上のひらけた場所の真ん中に巨大な怪物が居座っていた。
山かと思うばかりの巨体。
びっしりと生えそろった茶色のウロコに一対の大翼。
長い首を垂らしてこちらを物珍しげに凝視している。
竜だ。
「りゅっ、竜が住んでる……」
「本物の竜……」
わたしもレオンもあんぐりと口を開けて竜を見上げていた。
思いもよらないできごとに呆然とするしかなかったのだ。
た、戦う……?
無理だ。こんなのに勝てるわけがない。
だからといって逃げようにももはや手遅れ。
錯乱したわたしはこう叫んでしまった。
「たっ、食べないでくださーいっ!」
「ルゥさま!?」
竜はきょとんとした顔をする。
そしてそれから大笑いした。
竜の大笑いで肌がしびれるほど大気が震える。
「ワシは人間は食べんよ。安心しなさい、お嬢さん」
「た、食べないんですか……?」
「ワシに人間を食らう趣味はない。それに、大事な客人だからの」
今更だけどこの竜、人間の言葉をしゃべれるんだ。
それにどうやら敵意はなさそう。
むしろわたしたちを客人としてもてなしてくれるみたいだ。
「どうやら紳士的な竜ですね」
レオンが耳打ちした。
理性がなく凶暴な魔物とは違って、この竜からは温厚さを感じられた。
とりあえず、ほっとしてもいいのかな……?
「ワシの名はアルタイル。アシロマ山に住んでいる竜だ」
「わたしはルゥ・ルーグです」
「執事のレオンと申します。以後、お見知りおきを」
「ふみ、ルゥにレオンか。おぼえたぞ。よい名前だ。それに礼儀正しい」
よかった。どうやら好印象を抱いてくれたみたいだ。
アルタイルと名乗った竜はわたしとレオンにこう尋ねた。
「して、ルゥとレオンよ。おぬしらは何用でここまでやってきた」
「えっと、月のかけら! わたしたち、月のかけらをさがしにこの山を登ってきたんです」
「月のかけらとな」
月のかけらを知っている口ぶりだ。
「そこらに転がっているのが月のかけらだ」
「ひとつでいいんで、それをいただけないでしょうか?」
「ふむ……」
考え込むアルタイル。
「お願いします。わたしのお店を続けていくためにどうしても必要なのです」
「おぬしらがどうしても月のかけらが欲しいのは理解できる。そうでなければこんな危険な山を登ってはこないだろうしな。だが、しかし……」
どうしてだろう。わたしたちに月のかけらを渡すのを悩んでいるようす。




