4-1:竜の問いかけ
「僕はルゥさまのお顔を見ているだけで癒されますので」
おそらくわたしの顔は今、恥ずかしさで真っ赤になっているだろう。
見られるのは恥ずかしい。
でも、わたしを見てほしい。
矛盾する気持ち。
わたしの気持ちなど少しもわかっていないらしいレオンは、にこにこしながらわたしを見つめているのであった。
ここがごつごつした岩山じゃなくて花畑だったら、どれほど心地良いだろう。
いつかレオンとも行きたいな。お母さんと行った花畑。
「ルゥさま、起きてください」
突然、レオンが真剣な顔になった。
「魔物です」
身体を起こし、レオンが視線を向けている場所に目をやる。
少し遠くに動物のようなものがいる。
姿はシカに似ている。
しかし、頭に生えている、二又に分かれたツノはシカとは比べ物にならないほど鋭く尖っていて、金属のような光沢を放っている。まるで剣の刃だ。
「村長さんが言っていた『スティールホーン』という魔物でしょう」
「どうしよう、レオン」
「しばらく様子を見ましょう」
わたしとレオンは大岩の陰に隠れ、息を殺してシカの魔物――スティールホーンのようすを見ることにした。
草食動物のシカとは違い、スティールホーンは他の動物を狩って食べる。人間もその対象だと村長さんは言っていた。
つまり、わたしたちはスティールホーンにとって獲物。
わたしたちの気配を感じているのか、スティールホーンはきょろきょろと周囲を見回している。
立ち去る気配はない。
レオンが剣を鞘から抜く。
「戦うの?」
「仲間を呼ばれる前に倒すべきだと僕は思います」
「なら、わたしが魔法で攻撃するよ」
スティールホーンとの距離は離れている。
わたしの魔法なら遠距離攻撃で不意をつける。
……命中すれば、だけど。
「頼もしいです。さすがルゥさま」
「わたしにまかせて。だってわたし、聖女だもん」
自信がないくせについレオンの前でかっこつけてしまった……。
これはなんとしても成功させて、主としての面目を保たないと。
スティールホーンが背を向けたスキにそっと岩陰から出て、呪文を詠唱する。
魔力が活性化して、身体の中を駆け巡るのを感じる。
精神を集中させ、右手に魔力を集中させる。
凝縮された魔力が可視化され、光の球になる。
今だ!
「光の矢よ!」
光の球は矢となって、かざして右手から放たれた。
弦をしならせて弓から放たれたように、光の矢は風を切って駆け、スティールホーンめがけて飛んでいった。
そしてスティールホーンに直撃した――かと思いきや、狙いがほんのわずかに外れ、ツノの片方に当たった。
光の矢が爆発して閃光が視界を一瞬奪う。
スティールホーンのツノが片方折れた。
致命傷を与えられなかった。
スティールホーンがこちらを向く。
怒りの形相だ。
攻撃を受けて激昂したスティールホーンはすさまじい勢いで突進してきた。




