3-13:禁じられた魔法
「そうさね。祈祷師にアシロマ山を無事に下りられるよう、おまじないをかけてもらいなさい」
翌朝。
村長さんに言われとおり、わたしとレオンはアシロマ山に向かう前に村の祈祷師を尋ねた。
村では猟師が狩りに出かけるとき、必ず祈祷師にまじないをかけてもらうらしい。
「アシロマ山に向かう愚か者は久しぶりじゃのう」
祈祷師はわたしたちを魔法円の中心に立たせる。
そして先端に赤い宝石のついた杖を手にして不気味な呪文を唱えだした。
魔力は感じないから魔法というわけではなさそうだ。
もっと原始的な、今では迷信と言われているおまじないのたぐいだろう。
たぶん効き目はないのだろうけど、この村の習わしには従うのが礼儀だ。
わたしもレオンもじっと祈祷が終わるのを待っていた。
――と、そのときだった。
祈祷師の杖の先にはめられていた宝石が砕け散ったのは。
「こっ、これは!」
祈祷師は目玉がこぼれ落ちるくらい目を見開いている。
どうやら予想もしない出来事だったらしい。
「すっ、すみません! わたし、なにかいけないことしちゃいました?」
「……お前さんから、なにか特別な力を感じる」
祈祷師が震える手でわたしを指さす。
宝石が砕け散ったはわたしのせい……?
「ルゥさまは救国の聖女なのです」
わたしの代わりにレオンが答えた。
わたしが聖女として生まれてきたことと、時間を操る『刻星術』を使えることをかいつまんで祈祷師に教えた。
「なるほど……。どうりでふしぎな力を感じたわけじゃ」
祈祷師はそれから「しかし」と続ける。
「ルゥ・ルーグよ。おぬしからは聖なる力の他に、邪悪なる力も感じるのじゃ」
「えっ!?」
「おぬしには光と闇の二つの力が宿っておる」
聖なる力と邪悪なる力。
光と闇。
どういうことだろう。
わたしに『刻星術』以外の力があるということ……?
「ルゥさまは邪悪などではありません。なにかの間違いでは」
「いいや、間違いではない。この少女の身体には悪しき力が眠っておるのじゃ。今はまだ深い眠りについておるが、やがてそれが目を覚ましたとき、お前さんたちはその力に抗えるかどうか……」
わたしは胸に手を添える。
わたしの中に眠る悪しき力……。
「忠告しておこう。ルゥ・ルーグ。おぬしは悪しき者になる可能性を秘めておる。世界を滅ぼす魔王になりうる力をじゃ。己の心にある正しき心をゆめゆめ忘れぬようにな」
不吉な予言をされたわたしとレオンは祈祷師の家を後にした。
「邪悪なる力ってなんだろうね」
「僕は信じたくありませんが……。王都に帰ったらカシマール先生に尋ねてみましょう」
世界を滅ぼす魔王か……。
わたしなんかが魔王になってもどうせへなちょこだろうな。
そういう意味では安心かもしれない。ちょっとなさけないけど。
「『魔王ルゥ・ルーグ』ですか……」




