3-12:禁じられた魔法
「アシロマ山ですね」
列車が駅に到着した。
どうやらここで降りるのはわたしたちだけらしい。
駅はとても小さくて質素で、列車を停車させる最低限の設備しかなかった。
人の気配もしない。
駅員さん、どこにいるのだろう。
きょろきょろと周りを見ながら改札口まで来たところで、通路の真ん中に置かれた箱に気づいた。
――切符はここにお入れください。
と書かれていた。
無人の駅なんだ……。
切符を箱に入れて駅の外に出る。
目の前の景色を一言で表すなら、田舎。
平たい土地に延々と麦畑が広がっていて、両手で数えられる程度の家屋がぽつぽつと建っている。
王都と違って背の高い建物がないから、とても風景が広く感じられた。
「宿屋はなさそうだね」
「村長さんの家を訪ねましょう」
どこが村長の家かわからなかったので、とりあえず一番大きな家を訪問した。
よそ者の来訪はめったに無いらしく、出迎えてくれたおばあさんはとても驚いていた。
「村長さんのお宅はここでしょうか」
「ええ。ウチの主人が村長をしております」
おばあさんは家の中に引き返して村長さんを呼んできてくれた。
わたしたちが王都から来たことを告げ、しばらく滞在させてもらえないかとお願いすると、村長さんとおばあさんは「いいですよ。何日でも泊まっていきなさい」と快諾してくれた。
やさしい人たちでよかった。
「王都とはまた遠くから来たもんだ」
その夜、わたしたちは村長さん夫婦と共に食事をとった。
息子さんたちはすでに独り立ちしていて、夫婦二人で暮らしているとのこと。
「遠路はるばる来たのにこんなことを言うのもなんだが、アシロマ山に行くのはよしなさい」
村長さんがそう言う。
アシロマ山には凶暴な魔物がたくさん住んでいて、村の猟師すら近寄らないという。
カシマール先生の言っていたとおりだ。
「それでもわたしたちは月のかけらを手に入れにいかなくちゃいけないんです」
「商売のためかね」
「えっ? えっと……、そうなるのかな?」
「確かに月のかけらは王都で高く売れる。しかし、命を投げうってまで手に入れるようなものなのかね」
「売るためじゃないんです。魔法を使うのに必要なんです」
「魔法……? ワシにはよくわからんが、なんであれ、やめておいたほうがいい。アシロマ山へ行くのは死ににいくようなものだ」
「命をかける覚悟はできています」
レオンがそう言う。
わたしたちの表情をまじまじと見て、村長は説得を諦めたようだった。
「おじいさん。若い人たちには譲れないものがあるのですよ」
「そのようだな。おばあさん」
「お若いお二人さん。アシロマ山に登る前に、村の祈祷師のところへ行きなさいな」
「祈祷師? おまじないをする人ですか?」




