3-10:禁じられた魔法
「今のはデートだったのですか」
ぽかんとするレオン。
わたしは慌てて冗談めかしてこう続ける。
「もーっ、冗談だって」
するとレオンは真剣な顔になってこう言った。
「デートは大切な相手とするものです。気軽にしてはいけませんよ」
レオンはわたしにとって大切な人だからだいじょうぶだよ。
――とは勇気がなくて言えなかった。
主と執事という、しあわせでありもどかしくもある関係。
わたしはそこから一歩、踏み出せなかった。
翌朝、整備を終えた列車はわたしたちを乗せて駅を発った。
最初は列車の速さに驚いていたけれど、今はもう慣れてしまった。
むしろ気持ちがいいくらい。
地平線の彼方まで広がる原っぱ。
草や花や木の枝が風に揺れている。
のどかな景色だ。
……なのだが。
正面の席に座っているレオンがわたしをじっと見つめている。
なんだかむずかゆい。
「レ、レオン。本でも読んだら?」
「いえ、僕にはルゥさまをお守りする役目がございますので」
だからってひたすら見つめられるのは恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、ご主人さまとして命令します。レオン、自分の好きなことをしなさい」
ぽかんとするレオン。
それからにっこり笑ってこう答えた。
「わかりました。好きなことをいたします」
……ところがレオンはまだわたしを見つめている。
「レ、レオン……。好きなことしないの……?」
「していますよ。ルゥさまを見るのが僕の好きなことです」
その瞬間、体温が急激に上昇して、顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
「ルーグ家の屋敷で働いているときも、ルゥさまのおそばにいることがなによりの楽しみでした」
「そ、そうだったんだ……」
それはうれしいけれど……。
「わたし、本読むね」
「どうぞ」
気をまぎらわそうとわたしは本を読むことにした。
カシマール先生から借りた魔法書だ。
書いてある文章は魔法使いが使うのであろう専門用語が多々あって、読むのにかなり苦労する。
最初のほうに書かれてある照明の魔法と光の矢の魔法はどうにか使えたけれど、後ろのほうに書いてある高度な魔法はさっぱり意味がわからない。
意味はわからないけれど、とりあえず読む。
それでもレオンの視線をどうしても意識してしまう。
レオンはわたしの気持ちなんて少しもわからず見つめてくるのだった。
それからしばらくして、時計の短針が頂点に達した。
「そろそろ昼食の時刻ですね」
レオンがリュックサックから弁当箱を取り出す。
ふたを開けると、中にはごちそうが入っていた。
ハーブで焼いた鶏肉と新鮮な野菜。
それを半分に分けたパンではさんで食べるのだ。
えいっと思い切りかぶりつく。




