3-9:禁じられた魔法
「でも、レオンが王さまになったら、きっと国の人たちはしあわせになれるだろうな」
「いえ、僕など人の上に立つ人間ではありません。ルゥさまのような慈愛に満ちたお方こそ為政者にふさわしいのです」
「わ、わたし、慈愛に満ちてるかな……」
はげますつもりが、逆にほめられてしまった。
なにやってるんだ、わたし。
でもやっぱり、レオンは王さまになるべきだ。
レオンみたいなやさしい人こそ、王さまにふさわしいのだから。
「それに、僕は王になるよりもすばらしい名誉にあずかっています。ルゥさまの執事という、名誉ある職務に」
「気持ちはうれしいけど、わたしなんかのためだけに働くなんてもったいないよ」
「いいえ、ルゥさまは――」
とそこで言葉が途切れ、レオンははっと真剣な表情になる。
「もしやルゥさま、僕では力不足でしたでしょうか。執事としての使命をまっとうできていなかったでしょうか」
そう言いながら詰め寄ってきたので、わたしは慌てて首を横に振った。
「ええーっ!? そんなことないよ! むしろすっごく頼りになるもん、レオン。これからもわたしのために働いてほしいな」
「……そうでしたか。ありがとうございます」
執事としての仕事は当然として、料理もできるしお店の経営もできちゃうし、おまけに剣の腕前だって騎士に負けない。
こんなすごい人が、なんの取り柄もないわたしの執事だなんて本当にもったいない。
わたしとの出会いがなかったら、もしかしたらレオンは王さまになる決意をしたのかな。
それからしばらくわたしとレオンは小舟をゆっくりと漕ぎながら湖を漂った。
言葉数は少なかった。
夜の静かで神秘的な雰囲気を味わっていた。
水面がときおり風もないのに波紋を広げるのは、下に魚がいるからだろうか。
小舟の縁に手をついて、身を乗り出して水面そっと触れる。
波紋が広がり、水面に映る星空が揺らぐ。
なんだかそれはとても罪深い行為のような気がした。
レオンの横顔をそっと覗き見る。
絵画か彫刻のように美しい顔立ち。月の青白い光を浴びて余計に美しく見える。
彼がわたしの視線に気づくと微笑む。
その微笑みにわたしはどきりとしてしまった。
胸の鼓動が早まる。
レオンはいつだってわたしに笑顔を向けてくれる。
だから慣れていたはずなのに、月明かりの下の微笑みにわたしの心は射抜かれた。
「そろそろ戻りましょうか」
「そ、そうだね」
じゅうぶんに楽しんだわたしたちは桟橋に戻ってきて小舟から降りた。
最初にレオンが降り、それから彼が差し伸べてきた手につかまってわたしは降りた。
「楽しかったよ、レオンとのデ、デート……。なんちゃって」
勇気を出して言ってみた。
ど、どういう反応をするだろう……?




