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ルゥと刻のアトリエ  作者: 帆立
禁じられた魔法
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3-8:禁じられた魔法

「良い予兆かもしれませんよ」


 だといいんだけど。

 レオンが夜空を見上げる。


「美しい三日月ですね。むろん、ルゥさまにはかないませんが」


 レオンのほうがきれいだ。

 月明かりの下にいる彼は、美しい銀髪が輝いていて、なんだか神聖な雰囲気が漂っていた。

 思わず息をのんでしまう。

 彼をひとりじめしている自分に優越感と罪悪感を同時に抱いてしまうくらい、彼は美しかった。


「レオン、散歩でもしない?」

「こんな夜中にですか」

「うん。ちょっとした冒険」


 少し考えた後、レオンは微笑んでうなずいた。


「わかりました。散歩いたしましょう」


 夜の町はしんと静まり返っている。

 わたしとレオン以外に出歩いている人はいない。

 家屋の明かりも全部消えている。


 みんな眠りについている。

 起きているのはわたしとレオンだけ。

 ちょっとわくわくする。

 まるで異世界に迷い込んだかのよう。


 町のそばにある湖へとわたしたちはやってきた。

 暗い水面は月と星の明かりを映して光っている。

 その輝きを盗むかのように、そっと水面に手を入れる。

 冷たい。


「あそこに小舟があるよ。乗ってみようよ」

「かしこまりました」


 二人で小舟に乗って湖に出る。

 レオンがゆっくりとオールを漕いで小舟を進ませる。

 乗ってから気付いたけれど、またレオンと密着して狭い場所にいる。

 レオンの整った顔を間近に見ることになっている。

 どぎまぎする……。


「楽しいですか? ルゥさま」

「うっ、うん!」

「ならよかったです」


 レオンは平然としている。

 一応、わたしも女の子なんだから、男の子としてはドキドキしてくれてもいいのに……。


「レオン。レオンが王子さまだったころの――お城にいたころの話をしてくれない?」


 そこまで言って慌てて首を横に振る。


「あっ、思い出したくなかったらいいんだよっ」

「いえ、嫌な思い出とかではありませんので」


 船を漕ぎながらレオンはお城での暮らしを語ってくれた。

 日々の日課。

 王族としてのたしなみ。

 一族の複雑な力関係。


 レオンには兄弟が大勢いたけれど、必ずしも仲良しとは限らなかったという。

 王位継承権だ。

 レオンたちはただ生まれたわけではない。

 いつか王位を継がせるという野心のために生まれてきた子供だ。

 だからレオンたちにとって兄弟とは家族というよりも敵だった。


「なんだかそれ、悲しいね」

「そうですね。戦いとは無益なもの。避けるべきものです」


 レオンたち兄弟はうわべだけの仲良しだった。

 だから、先代の王さまが死んだとき、その関係はあっさり崩れた。


「王位継承権なんて、僕は興味なかったのですが」


 心底くだらなそうにレオンは吐き捨てた。

 レオンにそんな顔は似合わない。

 だからわたしはこう言った。

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