3-6:禁じられた魔法
「一応、忠告しておくわね。アシロマ山は危険よ。行くのはやめておきなさい」
「危険なのは承知しております」
危険だとわかっていてもわたしたちはいかなくてはいけない。
わたしたちの『刻のアトリエ』を続けるためには。
酒場で食事を終えたわたしとレオンは宿屋に戻ってきた。
狭い一人部屋に二人。
どうしてだろう。急に胸がドキドキしてきた。
さっきまでぜんぜん気にしていなかったのに、今はレオンと二人きりでいることを妙に意識してしまう。
レオンのほうは――なんともなさそうだ。
それはそれでちょっと残念かもしれない。
これでもわたし、女の子なんだけどな……。
「ルゥさま」
「ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられたせいで、うわずった声を出してしまった。
「明かりを消してよろしいでしょうか」
「あ、うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
ベッドにもぐる。
レオンは身体にシーツを巻いて床に寝そべる。
やっぱり床で寝るのはかわいそうだな……。
「レオン。やっぱり二人で寝ない?」
「なにかおっしゃいましたか?」
「えっ! ううん。ひとりごと……」
レオンは平気なのかな。わたしの執事になる前は王子さまだったのに。
ベッドにもぐりながらわたしは問いかける。
「質問があるんだけど、いい?」
「もちろん。なんでもお答えいたします」
「今の暮らしと王子さまだったころの暮らし、どっちが楽しい?」
「むろん、今の暮らしです」
即答だった。
「ルゥさまとの暮らしはとても充実しています。この出会いとはからいを神に感謝せねばなりませんね」
そ、そこまで言ってくれるんだ……。
うれしい。
「わたしも今の暮らし、とっても楽しいよ。レオンと毎日過ごせてうれしい」
「もったいないお言葉です」
わたしはよくばりだ。
レオンと主従の関係ではなく、違った関係になりたいと思ってしまった。
主と執事の関係は、それ以上の距離まで近づけない。
でも、わたしの想いが成就する可能性はないわけではない。
列車での会話を思い出す。
――じゃあ、わたしを恋人にしたい?
――そうですね……。ヒミツです。
レオンは否定しなかった。
ということは、つまり、逆説的に考えると、そういうことだよね……?
期待していいんだよね……?
「僕たちで『刻のアトリエ』を王都一のお店にしましょう」
「うん。がんばろうね」
そこで会話は途切れた。
レオンは眠ったのだろうか。
「レオン。もう寝た?」




