3-2:禁じられた魔法
「僕も平気です」
今になって身体が震えだした。
もし、魔法に失敗していたらわたしはブラッドハウンドに……。
危険な賭けだったのに気づいたら急に怖くなった。
これが戦い……。
「ルゥさま」
腰が抜けて立てずに震えていたわたしを背中から抱きしめてくれるレオン。
レオンってば、密着するのはよろしくないとか言ってたのに。
「ルゥさまが勇気を出したおかげで魔物を退治できました」
彼のやさしさとぬくもりが背中から伝わってくる。
わたしの震えはすぐに収まった。
「てへへ。わたしが足手まといじゃないってわかってくれたよね」
「し、しかし、やはり無茶はよろしくないかと。戦いのときは僕より後ろにいてください。よろしいですね?」
「わかったよ」
「ルゥさまは僕の――」
そこで言葉が途切れる。
レオンが頬を赤く染めている。
咳払いしてから彼はあらためて言葉を続けた。
「ルゥさまは僕の主なのですから」
その言葉で少しがっかりする自分がいた。
もっとステキな言葉を期待していたのを自覚してしまう。
いけないけない! レオンは一国の王子さま。わたしなんか不釣り合いなんだから。
さて、魔物は倒したから、次は列車の修理だ。
わたしの『刻星術』で列車が故障する前の状態に『戻す』のだ。
「本当に『刻星術』を使われるのですか」
カシマール先生によると高等魔法である『刻星術』には代償が伴うという。
その代償とは――寿命。
命を犠牲にして時間を操るのだ。
命を代償にすることにためらいはない――とは言えない。
それでもわたしはやらなくちゃいけない。やりたい。
「ここで使わなかったらわたし、きっと後悔するから」
周りは果てしなく広がる丘陵で、集落は見当たらない。
列車は客を乗せて完全に孤立している。
食料が尽きるまでに修理が終わるとは限らない。
それにまた魔物に襲撃される危険がある。
「車掌、正直にお答えください。修理はできそうなのですか?」
「……はっきり言ってお手上げです」
やっぱりか。
打つ手がないとなればやはりわたしがなんとかしないと。
――ルゥ・ルーグ。あなたの力ですべてを救いなさい。
大樹の声が心に響いてくる。
――救いの乙女。それが聖女なのです。
わたしはステッキを構える。
心を凪いだ海のように静まらせる。
時が止まったかのように心に静寂が訪れた刹那に唱えた。
「時間よ――戻れ!」
ステッキから白い閃光が放たれる。
視界を覆う強い光。
夜へいざなう暗闇を瞬時にして払拭する。
世界が白に染まる。
いち、に、さん……と数えて10になったところで光が収まった。
世界に夜の闇が舞い戻る。
皆、列車に注目する。
外見に変化はないけれど……。
――と思っていたそのとき、列車の煙突から蒸気がもくもくと立ち昇りだした。




