2-15:刻のアトリエ
わたしが魔法を唱えると、水平に掲げた手のひらから小さな光球が出現した。
光球の発光で周囲が明るくなる。
「ルゥさま、これは……」
「てへへ。わたしも魔法、使えるようになったんだよ」
発光の魔法のおかげで、真っ暗だった車内が明るくなっていた。
「こんな短期間で、しかも独学で魔法を習得されたのですね。すばらしいです」
「こ、これは初歩の初歩だから……。きっと誰でもすぐに使える魔法なんだよ」
けんそんしたもののレオンにほめられたのは素直にうれしい。
とはいえ、今のところ使える魔法はこれだけ。
カシマール先生から借りた魔法書には光の矢を放ったり炎を出したりする戦闘用の魔法も書かれていたけれど、街で使うのは危険だと思ってまだ試していない。
列車がトンネルを抜ける。
窓から外の光が入ってきて、車内は一瞬にして光を取り戻した。
もう不要だから発光の魔法を解く。
外の景色は視界の果てまで丘陵が広がっていた。
丘陵の境界から上は青空。
すがすがしい景色だ。
……あれ?
違和感をおぼえる。
景色の流れが少しずつ遅くなっている。
「列車、だんだんと遅くなってない?」
「どうやらそのようですね」
「駅に着くのかな」
「いえ、このあたりに駅はないようですが」
ふしぎに思っている間にも列車は減速していく。
そしてとうとう丘陵の只中で停車してしまった。
窓を開けて外を見てみても、周囲にはなにもない。
「列車の故障により、しばらくの間、停車いたします」
車掌がやってきて乗客たちにそう告げた。
乗客たちがざわめく。
乗客の一人が立ち上がって車掌に質問する。
「停車? どれくらい停まるんだ」
「今のところわかりません」
「わからないとはどういうことだ」
「申し訳ありません。しばしお待ちください」
車掌は逃げるように去ってしまった。
「故障なら仕方ありません。待ちましょう」
レオンはこのまま待ち続けるらしい。
わたしは別のことを密かに考えていた。
かなり長い間待ったけれど、列車が動きだす気配は未だなかった。
空の頂点にあった太陽が沈みはじめている。
夜が徐々に近づいてきている。
他の乗客たちも「まだ直らないのか」といら立っていて、車掌に詰め寄る人まで出始めた。
「ねえ、レオン」
わたしは思い切ってレオンに提案した。
「わたしなら列車の故障を直せるんじゃないかな」
「さすがのルゥさまでもそれは――」
言葉の途中でレオンははっと気がつく。
そして真剣な口調でわたしに言った。
「『刻星術』を使ってはいけません」
「でも」
でも、わたしの『刻星術』なら列車を故障する『前』に『戻す』ことができるはず。
たぶんきっと、この事態をどうにかできるのはわたしだけなんだ。
「レオン、お願い。一度だけ『刻星術』を使わせて。自分にできることがあるにもかかわらずそれをしないのはきっと、ダメなことだと思うの」
たとえそれに代償が伴おうと。
「し、しかし」
「レオンも吹雪の夜にわたしのイヤリングをさがしてくれたよね。あれと同じだよ」
「ルゥさま……」
レオンを困らせている自覚はある。
けれどわたしはなにもせずにはいられない。
レオンは悩んだ末にこう答えた。
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