2-13:刻のアトリエ
「はい。何度か」
「わたし、初めて」
「では、ルゥさまにとって楽しい思い出ができるよう、全力を尽くします」
きっととっても楽しいんだろうな。列車での旅。
期待に胸を膨らませていたが、待て待てと思い直す。
わたしは真剣な顔をして、びしっとレオンを指さす。
「レオン、遊びじゃないんだよ。わたしたちの『刻のアトリエ』の存亡がかかってるんだからね」
「ふふっ。そうでしたね」
車掌が扉を開けると、乗客たちが吸い込まれるように一斉に列車に乗り込む。
わたしとレオンもその流れに乗って乗車した。
一人分しか通れない狭い通路を歩き、自分たちの席へと向かう。
途中、逆から来た乗客とぶつかりそうになり、身体を縦にしてどうにかすれ違った。
「あった。わたしたちの席だよ」
わくわくでいっぱいだったわたしは、飛び乗るように席に座った。
向かい合わせの席にレオンが座る。
結構近いかも……。ひざとひざがくっつきそう。
「ルゥさま、緊張しているのですか?」
「しっ、してないよ!?」
と答えたものの声はうわずっていた。
さすがレオン。わたしの心を見透かしている。
「ご安心ください。列車は馬車より安全ですから」
けど、レオンは勘違いしている。
わたしが緊張しているのは列車がこわいからではない。
レオンとこのまま見つめ合いながら旅をすることに気づいてしまったからだ。
レオンとこんな間近で見つめ合うなんて……。
な、なんだか照れちゃうな……。
わたしの思いなどつゆも知らないようすのレオンは、平然とした面持ちでいる。
レオンはわたしと見つめ合うの、平気なのかな。
ちょっとがっかりする。
レオンはわたしを一人の女性として見てくれていないのかな。
あくまで主従の関係?
「レオン。わたしって女の子としての魅力、あるのかな」
「もちろんです。ルゥさまはとても魅力的な女性です」
「うーん」
「ウソではありませんよ」
「レオンはわたしがなにしてもほめてくれるからなぁ」
「本心でございます」
よし、レオンにちょっとイジワルしよう。
「なら――わたしを恋人にしたい?」
「えっ」
きょとんとするレオン。
さあ、レオン、答えて!
しばらく目をぱちぱちさせてから、レオンは微笑みながらこう答えた。
「僕がルゥさまを恋人にするだなんて、身の程知らずもいいところです」
「レオン、本当は王子さまでしょ」
「僕は執事ですよ。ルゥさまの忠実な」
「じゃあ、わたしを恋人にしたい?」
「そうですね……」
しばらく考え込んでからレオンはこう言った。




