2-9:刻のアトリエ
「口のまわりにシチューがついていますよ」
くすりと笑ってレオンはわたしの口を拭いてくれたのだった。
……な、なに期待してたのわたしっ!
今のわたしはきっと、恥ずかしさで顔が火照ったみたいに赤くなっているだろう。
「ルゥさま?」
レオンもふしぎそうに首をかしげていた。
「と、ところでレオン。戦いの心得があるって、どんなふうに戦えるの? 魔法?」
「剣でございます。城にいたころ、剣術を習っていました」
さすが王子さま。剣術ができるなんてかっこいい。
「今は亡き父上と魔物を討伐した経験もございますので、ご安心を」
「頼りにしてるよ、レオン」
わたしがそう言うと、レオンは心底うれしそうな表情になった。
「あっ」
そしてわたしはあることに気づく。
「剣、ないよ」
「確かに……。そうですね」
わたしもレオンも剣を持っていない。
剣がなければ戦えない。
剣ってどこで買うんだろう。鍛冶屋?
翌日、さっそく鍛冶屋へと足を運んだ。
ところが売っていた剣はわたしたちが思っていた以上に高価で、『刻のアトリエ』をどうにか経営できるくらいのお金しかもっていないわたしたちでは到底手が出せなかった。
困った。どうしよう。
レオンも黙って考え込んでいる。
しばらく考えたところで、わたしはふとひらめいた。
「そうだっ。錆びた剣を安く譲ってもらおうよ」
「ルゥさま。それはもしかして」
「『刻星術』で錆びた剣を新しい状態に戻すんだよ」
「いけません」
レオンが真剣な顔でぴしゃりと言った。
わたしはびくっと驚く。
「その『刻星術』の代償をどうにかするために冒険するのです。ここでルゥさまが『刻星術』を使ったら意味がないではありませんか」
「それはそうだけど……」
「ルゥさま。ご自分の身体を大事にしてください」
レオンはわたしの両肩に手をやる。
「ルゥさまは僕にとってすべてなのです」
その瞬間、わたしの体温が急激に上がった。
また顔がまっかになってしまったのが自分でもわかる。
胸がどきどきする。
レオンと目が合わせられなくなって視線をそらす。
「あ、ありがと……」
「『刻星術』は決して使わないという約束、忘れないでください」
「うん。わかってる」
すると安心したふうにレオンは微笑んだ。
レオン本当にわたしのことを気にかけてくれてるんだ。
うれしい。
とはいえ、どうしよう。
剣がなかったレオンは戦えない。
そうなるとつまり――わたしが魔法で戦うってことになるのかな。
「店主よ。俺の剣の手入れは終わっているか」
そのときだった。見知った人が鍛冶屋にやってきたのは。
銀色の胸当てをつけた金髪の騎士の青年。
名前はたしか――。




