表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまけ投稿!割れ綴じ夫婦! 姉に押し付けられた婚約者がラノベ的優良物件ではなくマジでやべー奴だった私の話  作者: 家具付


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

距離の縮み方と想像を絶する結婚式前について

私と旦那様の距離感は、少しずつ変わっていったような気がする。

旦那様は、妻を愛していると周りに思い込まれた結果、遊びから早く帰ってくる様になって、そうなると自然と、私と一緒に居る時間が増えていったのだ。

私は山賊流のカードゲームが実は得意、と言うのを知られてしまった事もあって、旦那様と二人きりのカードゲームに興じる事も始まって、それはもう二人の就寝前の儀式よろしく、行われる事となったのだ。


「あー、また負けたぜ、お前そういうの無駄に引きが強くないか」


「手札は嘘をつきません」


「なんか言ってる事無駄に格好つけなんだよな、そこらへん。でもお前には妙になじんでて、不思議」


「私の方がこの札遊びに費やした時間が長いからでしょ、経験が物を言う遊びだから」


私はその日も、うっかり言葉遣いが山賊時代の物に戻ってしまって、あ、と口を手で抑えた。

やらかした。感情が表に出てくる時、私の口調はこう言った、貴族令嬢らしからぬ物になるのだ。

それが良くないと、家庭教師の友人に時間をかけて矯正してもらったのに。

でも。


「お前のその言葉遣い、いいよな。おれに気を許してるって感じがして、おれだけに向けてっから特別な気分になる」


にやにやした顔で旦那様が言い出したのだ。この言葉遣いを、旦那様はお気に召したらしい。

大変な驚きだ。品位に欠けるとか言われてもおかしくないと言うのに。


「そう言われましても、言葉遣いは育ちを写すとも言われております故、たとえ夫であろうともぞんざいな言葉遣いはお互いによろしくないのでは」


「それおれに対する嫌みかよ。おれはうちの中でだけこれだけどな。外では分厚い猫を被ってんのさ。元々のおれはガキの頃、うちの親の教育方針で荒っぽい訓練兵の間に突っ込まれて育った身の上だからか、どうにも口調が悪くなる」


知らない旦那様の過去だった。そういえば、私達が子供の頃の上流階級の子育てのはやりは、まさにスパルタ、厳しい環境に幼少の頃から身を置かせる事だった、とふと思い出した。

旦那様もその影響を強く受けた育ちだったのだろう。

彼のあちこちに見受けられる、荒っぽい所業の理由はなんとなくそこでわかった。


「でも私は、旦那様がご自分の家では、心安らかにいられると言う事はとても大事な事だと思いますよ」


「ん、だったらお前のその口調も辞めろよ、おれは自分の奥さんにそんな他人行儀な良い堅されんの気に入らないんだ。それに、そういう口調じゃない時のお前の方が、目が生き生きしてて好きだぜ」


私は口元に運ぼうとしていた茶器を落としかけた。旦那様から好意を表されたのはこれが初めてだったからだ。

しかし茶器も銀貨を山のように使う逸品で、落とす訳にはいかない。取り繕って茶器を卓に戻して、私は息を吸った。


「……こんなので良いの? あんた変わり者だね」


「おう」


旦那様は私がそういういい方をし始めると、とろけたバターのように目をとろけさせて、ご満悦と言った空気をまとった。

本当にこっちの方が良いらしい。


「……本当に、良いところのお坊ちゃんってのは前代未聞極まりない」


「その良いところのお坊ちゃんに気に入られるお前も、同じ狢の穴って奴だろ」


しれっと言う言葉に私は吹き出してクスクス笑って……旦那様がごきげんだと言うように喉の奥でクツクツ笑っているから、これはこれで良いかもしれないと思ったのだった。





そんな事を積み重ねて、旦那様との距離をじわじわと近付けていくうちに、とうとう義姉様の結婚式の当日となったのだ。

私はこの日のために、半年かけて新しい衣装を新調した。衣装の新調に時間をかけすぎという意見もあるけれども、基本的に貴族の流行は初夏から行われるシーズンに始まり、秋にはその流行を取り入れたスタイルが用いられ、次の初夏の流行が決まるまで使われるのだ。

そのため流行遅れのスタイルという物はそう簡単に、ならない。逆に流行遅れのドレスしか身にまとえないとなると、それだけ経済的に余裕がないのだと陰で言われる。

私は旦那様が私のドレスの事にものすごく首を突っ込んで、ああでもないだのこうでもないだの、こうしろだのああしろだのと私以上に仕立屋の皆様に口を挟み首を突っ込み意見を言う物だから、何度か彼の暴走を止めたくらいだった。

しかし仕立屋の皆さんは、この家お抱えの腕利き揃いでいらっしゃるためか、面白がって旦那様の希望を叶えてしまって……義姉様の結婚式だというのに、私の方がだいぶ華やかに仕上がってないかと思うできばえになってしまった。

色のマナーはそれなりにあるので、色彩や装飾品の素材などでマナー違反は全く起きていないけれどもね。





「まあ、本当に素晴らしいですわ。公爵夫人」


「ありがとうございます。夫の力作なんですよ」


「本当にうらやましい限りですわ、公爵が夫人のためだけに、デザイン画を作ったというお話も聞きます。夫人をこれ以上無く華やかに引き立てるドレスですわ」


「私も、夫の知られざる才能にこのところ驚いてばかりなのですよ」


私は結婚式までの期間の間に、お茶友達になった複数の貴族のご婦人達と会話をしていた。彼女達も義姉の結婚式に呼ばれたのだ。家柄としては、私よりも皆低いという形だが、えらそうな態度は私にとっては厳禁だ。


「来年のシーズンには、夫人のドレスが最新モードになりそうですわ。とても楽しみです」


「夫の気分に左右されますから、どうでしょう。王女様が、新進気鋭のデザイナーを集めているとも聞きますし、来年も王女様が流行の最先端になるのでは」


「王女様は本当に、芸術に関しての才能が際立っていらっしゃいますからね」


皆で王女様すげーと言う話でしばし盛り上がる。貴族社会の頂点に近い所に位置する王女様を称える話で盛り上がる事は、安全な話題と言って良い。

そんな時だ。


「公爵夫人、新婦様が妹である夫人に会いたいと」


結婚式を執り行う関係者……振り返ると義母の妹……義理のおばさま……が私の方を呼んでいて、私はおしゃべりを中断して、そちらに近付いた。


「義姉様が? 大丈夫かしら。結婚式前の女性は緊張のあまり不安定だとも聞きますし……今参りますわ」


皆さんには先に挨拶をし、私は義姉の控え室におばさまとむかったのだが、そこには……



「誰も居ない……?」



誰も居ないしなにも無い。いや、ちがう。誰も居ないんじゃなくて、弱々しい声で泣いている赤ちゃんを置き去りに、一枚の書き置きがあるばかり。


「……」


私はおばさまにむかってこう言った。


「お父様やお義母様、お義兄様を急いで呼んできてください。それから新郎控え室から、義兄様もお呼びください。……とんでもない事が書かれております」


書き置きには、手短に言うと、


もっと素敵なお金持ちと出会っちゃった! 彼と幸せを再構築するわ! このところ節約節約でうるさくてたまらなかったの!! 私には豪華な生活が似合うんだから! 赤ちゃんは要らないから置いていくわね!


と言った内容が書かれていたので、私は義姉の責任感のなさにめまいがしそうになっていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ