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シジミの玉座 ~狂気と暴力の王位争奪戦~  作者: へびうさ
第二章 炎の内戦

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89/100

89.兄と妹

 俺は100騎を率いて戦場を疾駆しながら、敵軍の動きを観察している。


 左翼の民兵は反乱軍の散開戦術に対応できず、戦場をうろうろしているだけだ。

 これは練度の低さに加えて、将校の数が足りていないからだろう。


 各諸侯がバラバラに動いていた中央と右翼は、再び陣形を整えるように集結し始めた。

 と思いきや、そのタイミングに合わせて反乱軍の予備兵力が投入されると、混乱して収拾がつかなくなった。きっとニートがうまいことやってくれているのだろう。


 俺たちは戦場の左側、つまり敵の右翼の横を通って後方へ回りこもうとしている。進行方向に立ちふさがる敵部隊はおらず、まさに無人の野を行くがごとしだ。


 背炎の陣を敷いていた敵軍の後方には、ネキの隠術によると思われる炎の柱が立ち並んでいるが、最初の頃よりも火勢は衰えている。ネキの力が尽きようとしているからかもしれない。


 そして俺の目は、ついにメアの姿を捕らえた。

 敵軍の中央の最後尾、幾重もの人垣に囲まれた中心に、馬上にたたずむ小柄な少女の姿があった。


 不安そうに周囲を見回しているその姿は、とても話に聞くような残虐な女王には見えない。

 だからといって、今さら討ち取るのをためらうつもりはない。

 俺は後ろからついてきているギャザリンと兵士たちに号令をかけた。


「メアを見つけたぞ! ついて来いっ!」

「はっ!!」


 俺は馬首を右に向け、ぐるっと旋回しながらメアに近付いていく。

 味方がついてくると信じて、セイファンを全速力で駆けさせる。もっとも、ついてこないなら1人で突っ込めばいいだけのことだ。


 前面に大盾を並べた敵兵が隊列を組み、行く手を(はば)んでいた。

 なるほど、俺たちがメアをねらうと読んで、騎馬隊の襲撃に備えていたわけか。


 メアも俺の姿に気付いたようだ。驚く様子は見せたものの、すぐに兵士たちに指示を出し始める。

 兵士たちはきびきびと動き、女王を守る隊列がさらに分厚くなっていく。


 ずらっと並ぶ大盾の間から、長い槍が地面と水平に突き出された。騎馬隊を迎え撃つには完璧な態勢だ。

 馬は尖ったものを怖れるので、槍の穂先を見ると止まってしまうのだ。

 普通の馬ならば。


「行くぞセイファン! 俺を信じろ!」

「グロロォーーッ!」


 俺を完全に信じきっているセイファンは、怖れずに突っ込んでいく。


「邪魔だっ!」


 そして最前列の敵にぶつかる直前、俺は(あぶみ)に体重をかけて踏ん張り、常識粉砕剣(ペインラヴァー)を右から左へと振り払った。


 キイイィィンッ!


 一振りで、突き出された槍をまとめてへし折った。

 すぐさまペインラヴァーを逆方向に振り抜く。


 ガゴオオォォンッ!


「ぎゃあああっ!!」


 最前列に並んでいた大盾を、敵の兵士たちと一緒になぎ倒す。

 その向こうには、2列目の大盾部隊が待ち構えていた。

 だが、この手にペインラヴァーがある限り、雑兵が何千人いようが負ける気がしない。


 ドガアアァァンッ!


「ぐああああっ!!」


 2列目の大盾部隊も吹き飛ばした。

 その向こうには3列目がいたが、やることは変わらない。


 バガアアァァンッ!


 道路上に積み重なった落ち葉を(ほうき)()き清めるように、邪魔な大盾を掃除していく。


「ば、化け物っ!」

「た、助けてくれぇっ!」

「いやああぁぁっ!」


 俺のあり得ない強さを見て恐慌をきたしたのか、落ち葉たちは風に飛ばされるように逃げていった。


「よし、前が開いた! 行くぞっ!」

「はっ!!」


 100騎は怖れずについてくる。士気は極限まで高まっているようだ。


「みんな、アクセル様に続けっ!」


 ギャザリンは俺に負けじと槍を振るい、近くにいる敵を手当たり次第に殺しまくっている。


「キャッハーーッ!」


 不気味な雄叫びを上げているのは人類絶滅槍(エクスターミネーター)だ。敵の血を吸うのがよっぽど嬉しいのだろう。頭のおかしい槍だ。


 俺はエクスターミネーターと違って、殺戮を楽しむつもりはない。

 ねらうのはメアだけだ。


 かわいそうだが、メアは生かしておくわけにはいかない。ここで彼女を取り逃がせば、内戦が長引いてしまう。


 もちろん俺だって、妹を殺すことには抵抗がある。

 だが生かして捕らえれば、メアが今までやってきたような残酷な公開処刑を、彼女自身がその身に受けることになるかもしれない。

 俺はそんなものを見たくはない。ここで死なせてやることが、兄としてできる唯一のことだ。


「アクセル様、メアは私に討ち取らせてください!」


 ギャザリンが叫んだ。


「いや、俺がやる! 君はメアに近付くな!」


 俺は有無を言わせぬ口調で答えた。この重要な役目を、誰かに譲るつもりはない。


 メアが100メートルの距離にせまった。

 目が合った。彼女はおびえた様子を見せず、馬上で俺をにらみ返してきた。

 この状況であんな顔ができるとは、たいしたものだ。


「見事だ、メア!」


 つい、褒めてしまった。


「何が見事よ! そんなこと言われても、嬉しくなんかないんだからね!」


 やはりいい度胸をしている。

 だが周りにいる兵士たちは主君ほど肝がすわってはいないようで、逃げるそぶりを見せている。場違いにきらびやかな軍装は、親衛隊だろう。


「逃げるな! 最後までメアを守れ!」


 自分でもおかしなことを言っているとは思うが、この期に及んで主君を置いて逃げるような奴らは許せない。

 メアは女王なのだから、最後まで付き従って死ぬ人間がいてほしかった。


 俺の言葉に従ったのかどうかはわからないが、親衛隊員たちは逃げるのをやめてこちらに向かってきた。


「よし、いい覚悟と忠誠心だ」


 メキャッ。


 俺は彼らを称えてから、一振りで叩き潰してやった。

 目の前に、メアがいた。


「メア、おまえは俺の妹だ」

「知ってるわよ! だから何だって言うの!」


 俺は父とか兄とか姉とか、自分より年上の人間に対しては反発したくなる性分だ。

 その代わり年下の者に対しては、守ってやりたいという思いがある。メアに対して、何も兄らしいことをしてやれなかったことは悔いが残る。


 とはいえ、そんなことを言ってられる状況ではない。

 俺はセイファンのスピードを落とし、そっとメアに馬体を寄せた。


「だからおまえが愛したこの国のことは、俺に任せろ」

「私は別にこの国のことなんか――」


 俺は左手でメアの細い首をつかみ、頚椎(けいつい)を握りしめて粉砕した。

 そしてグラリと傾いたメアの死体を脇に抱え、その目をそっと閉じた。


「アルゴール王国の女王、ヴァランサード・メアは俺が討ち取った! 命が惜しい奴は武器を捨てろ!」


 女王を倒したからには、これ以上の戦いは無意味だ。


「全兵に次ぐ! アクセル殿下の言葉に従い、武器を捨てろ! 無駄に命を捨てるな!」


 向こうにいる指揮官らしき男が、周囲に大声で呼びかけている。

 ギデオンだ。王家の一等武官だった彼のことは、俺もよく知っている。メアを守れなかったことは無念だろう。


 敵の兵士たちは競うように武器を捨てていった。


 勝負は決した。

 俺たちの、勝ちだ。

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