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シジミの玉座 ~狂気と暴力の王位争奪戦~  作者: へびうさ
第二章 炎の内戦

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81.軍議

 メアがドロン教会から破門された。

 その破門を宣告したレイスがドーンポリスにやってきた。ルシアとブラッドも一緒だ。


 俺は詳しい話を聞くため、彼らをニートの部屋に招いた。

 この部屋の中では身分にこだわらず対等に話をするという不文律があるので、みんなで車座になって座った。

 ティコとタラサンはともかく、呼んでないのにカーケンまで座に加わっている。ビキニ姿で山賊のように足を大きく開いて座っているのが、見るに堪えない。


「ここが不敗公の私室か。たいしたものだ」


 レイスは絨毯の上で胡坐をかき、興味深そうに室内をながめている。感情を表に出さない男も、部屋を埋め尽くす本には驚いているようだ。

 部屋の主であるニートは居心地が悪そうに両膝を抱えている。孤独を愛する彼は、自分の部屋に人が集まるのを好まないのだ。


「アクセル殿下、そしてティコ君、その節は御迷惑をお掛けしました」


 ルシアが両手をついて頭を下げた。俺とティコを捕らえて地下牢に入れた件を言っているのだろう。


「それはもういい。それよりも、なぜ君はレイス兄さんの部下になったんだ?」


 2人が一緒に行動しているのが、俺には理解できない。


「私はレイス様の母を殺すという大罪を犯しました。にもかかわらずレイス様は私を許してくださいました。その寛大なお心に触れ、私は悔いを改めたのです。自分の犯した罪を償うため、これからはレイス様のために生涯を捧げるつもりです」


「アハハハハッ! レイスが寛大な心を持ってるとはお笑いだ!」


 カーケンが笑い飛ばした。「おまえを許したのは、シャコガイ家を味方につけておきたいからに決まってるじゃねえか。今のおまえは洗脳されてんだよ。その男は宗教を使って人の心を支配するのが得意らしいからな」


「そんなことはありません!」


 ルシアはムキになって言い返す。「レイス様のような素敵な殿方は、この世界のどこを探してもいません! 私は1人の女としてレイス様をお慕いしているのです!」


 これはカーケンの言う通り、洗脳されているのかもしれないな。

 そう思ったのはみんな同じようで、誰もが冷ややかな表情でルシアを見ていた。ニートに至っては、悟りを開いたように虚空を見つめている。


「それはさておき」


 俺は話題を変えた。「レイス兄さんがここに来たということは、ドロン教会は反乱軍を支持するということですか?」


 もしそうならば、大きな大義名分を手に入れたことになる。


「そうではない」


 レイスは首を振った。「メアを破門したのはドロン教会の決定だが、ここに来たのは私個人の意志だ」


 枢機卿としてではなく、アルゴール王国の王子として来たということか。


「でも枢機卿の恰好をしたレイス兄さんがここにいれば、ドロン教会と反乱軍は協力関係にあると人々は思うでしょう」

「そのように勘違いする者がいたとしても、私の知ったことではない」


「ならば、勘違いさせておきましょう」


 タラサンの言葉に、一同はうなずいた。




 それ以後、今まで日和見(ひよりみ)を決め込んでいた諸侯たちが、続々とドーンポリスに集まってきた。メアが破門され、レイスが反乱軍についた影響は大きかったようだ。


 シャコガイ公も2000の軍勢を率いてやってきた。御三家にしては人数が少ないのは、相変わらず金がないからだろう。

 それでも反乱軍に参加したのは、娘のルシアがいるからに違いない。


 現在ドーンポリスには、38家の諸侯軍と不死鳥軍団が集まっている。

 総兵力は約7万。これなら王家とも互角に戦えるだろう。


 俺は大広間に各軍の指揮官を集めて、軍議を開くことにした。

 10台のテーブルを組み合わせた大テーブルを囲んで、諸侯たちが決められた席についていく。


 ツヤガラス女公は例によって、()()に乳房を支えさせながら座った。

 カーケンは不死鳥軍団の司令官として席に着いた。レイスとルシアにも席が用意された。


 俺は総司令官なので、当然のように上座に座った。その左の席にはカースレイド商会の会長ユリーナ、右の席には俺がもっとも信頼するニートを座らせた。ニートの膝の上には、2歳のマクシムが乗っている。

 ティコとタラサンとギャザリンは席を与えられず、俺の後ろに立っている。さすがに公式の場では、彼らを諸侯と同じ扱いにはできない。


「それでは軍議を始める。まず現在の状況だが――」


 最初に俺は現状について説明した。これまでの戦いの経緯、現在の反乱軍の戦力、メアが王殺しの真犯人であること、などだ。

 その上で、各軍の指揮官に意見を求めた。


「これほどの大軍が集まったのなら、小細工は必要ありません! すぐに全軍で王都を攻めましょう!」

「王家軍を野外に誘い出し、会戦で雌雄を決するのがよいでしょうな」

「おう、大軍同士が正面からぶつかる会戦こそが、戦争の華よ」


 すぐに出陣すべきだと主張しているのは、ヒースター平原の戦いの後で反乱軍に加わった諸侯たちだ。

 それに対し、敗戦を経験しているイワガキ家のラッセル公子は慎重だった。


「我々は寄せ集めの軍です、統一された軍事行動をとれるようになるまで、調練を重ねてから出陣するべきだと思います」


「いかにも。すぐに攻め込むのは得策ではない」


 同じくヒースター平原の戦いに参加していたモランフォード公が同意した。「反乱軍の兵力は日増しに増えている。このまま待っていれば、さらに多くの味方が集まるはずだ」


「大軍がいつまでもドーンポリスにとどまることには、賛成できません」


 ニートの弟のルースは反対した。「滞陣が長くなると、どうしても士気がゆるんできます。すでに兵士たちが城下で酒を飲んで暴れたりして、住民が迷惑を被っているとの報告が上がっています」


「大義のためだ。それぐらい我慢しろ」


 誰かがそう言うと、ルースは激高した。


「それぐらいとはなんだ! ライジング家にはこの町の住民を守る義務がある! 兵士の統制もできない者がデカい口を叩くな!」

「なんだと! 小僧のくせに生意気な!」


「やめろ! 仲間同士でつまらない言い合いをするな!」


 俺は2人を怒鳴りつけた。


「はっ、失礼しました」

「申し訳ありません」


 ルースともう一人の諸侯は素直に頭を下げた。


「みんな言いたいことはあるだろうが、今は建設的な話し合いをしよう」


 俺はそう言ってから、ニートに顔を向けた。「ニート、この町の住民が被害を受けている件について、君から何か言いたいことはあるか?」


「へ? ええっと……特にないです」

「そうか」


 突然話を振ったのは、よくなかったかな。


「敵には隠者がいることを忘れないほうがいいでしょう」


 元王家の一等武官ベアードが話を進めた。


「ああ、そのとおりだ」


 カーケンがうなずいた。「ネキとかいう元隠者のババアは火の隠術をつかう。ヒースター平原の戦いは、その隠術のせいで負けたと言っていい」


「火など、しっかりと陣形を組んで大盾を並べておけば防げるでしょう」


 誰かが意見を言うと、カーケンが怒った。


「てめえはバカか! あの巨大な炎をそんなんで防げるわけねえだろうが!」

「ば、バカだと!? カーケン殿下、言葉には気を付けていただきたい! 私を誰だと思っているのだ!」

「てめえなんか知るか! そんなに家柄を自慢してえなら、顔に名前を書いとけ!」


 くそっ、こいつらは話し合いもできないのか!


「やめろ!」


 俺は再び怒声を上げた。そしてカーケンは無視して、名前のわからない諸侯に声をかけた。


「カーケンの口の悪さは、どうか大目に見てやってほしい。こいつに礼節を期待するのは、カエルに芸を覚えさせようとするようなものだ」


「なんだと!」


「カーケン殿下、どうかアクセル様を許してあげてください」


 今度はティコがカーケンをなだめた。「どう考えてもアクセル様のほうが礼儀知らずですが、自覚がないので僕も困ってるんです」


「そうか、てめえも苦労してるんだな」


 ティコの殊勝な態度が気に入ったのか、カーケンは怒りを収めた。さすがは天性の人たらしだ。


「そうなんですよ。アクセル様のことを正義感の強い好青年と評価する人がいて、僕はいつも不思議に思ってるんです。1000年に1人の偽善者と称されるだけあって、外面(そとづら)がいいからでしょうね」


 何を言ってやがる。


「やはりこれだけの大人数で会議をしても、なかなか意見はまとまらないようだな」


 レイスが発言すると、ツヤガラス女公も同意した。


「確かにその通りよ。ここはやはり、戦術の天才の意見を聞いてみるべきであろう」


 皆は一斉にニートに視線を向けた。

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