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俺の編成、パーティーメンバー

 運転手をアバレスタの街に停車させて、合流の為に俺達は一度馬車を降りた。

 集合場所に既に来ていたのは、冒険者ヘレン兄弟。俺は聖騎士レイシアと見習い騎士アレイクを引き合わせる。


「あー、紹介しとく。この二人はアルデバランの騎士、レイシアとアレイク。そんでこっちは大道芸人を目指してるヘレン兄弟」

「誰が大道芸人だ! 騎士の同志とは思いもよらなかった。俺はヘレン、いずれは英雄となる男だ」

「俺は弟のクライトという。よろしく頼む」

「ああ、よろしく。私はレイシア・アンサラー。微力ながら助太刀させてくれ」

「アレイク・ホーデンです。が、頑張りますのでよろしくお願い致します」



 冒険者はあまり騎士を好き好まない。脛に傷を持っていたり、後ろめたい過去の経歴に触れられるのを恐れて関わりたがらないものだからだ。

 だがヘレン達はそんな背徳するような物は無いとばかりに、堂々と騎士二人と握手した。特にヘレンはレイシアの顔を見て「良き旅になりそうだぞっ」とうきうきしていた。俺の脳内に彼女募集中がよぎったのは正解だっただろう。


「なぁグレン、あの未来の英雄って、どういうことだ?」

「ちょっとヤバい人引き込んじゃったんじゃないですか? 心配になってきました」

 意識が一度離れたのを見計らい、耳打ちしてくる騎士二人。表面上は全く気にも止めてない様子だったがやはりおかしいと思ったらしい。


「うん、まぁ害は無いだろうからほっとけば大丈夫だろ。俺もあんまり気は進まなかったんだがなぁ」

 俺より積極的に促した奴に言いくるめられたんだよ。愚痴を漏らそうと思ったが、その当人も到着だ。


「待たせたか? おや、聞いてはおったが騎士の者達も同伴か。その若さで騎士になる者ならば心強いのう」

「リューヒィ殿! 待っていたぞ!」

 声をあげたのはヘレン。駆け寄る彼にリューヒィは穏やかな微笑をしながら頷いた。

「おお、確かおぬしはヘレンだったか。此度の道中任せるぞい」

「おうとも! 荷物があるとお見受けする、荷台まで運ばせてもらえまいか?」

「お言葉に甘えて頼もうかの。そっちの風呂敷に包んだものが荷物じゃ。あと酒樽」


 ギルド役員の運搬主が引いた荷車にヘレンは駆け寄る。その中にはいくつか木の樽が乗っていた。聞けば中身は葡萄酒らしい。物のついででアバレスタでの酒場で出た物が気に入った様でそれもドラヘル大陸に持っていくという。ヘレンは一瞬それを運ぶことに躊躇したが、気合いを入れ直して荷を抱え始めた。さっそく良いように使われている。


 せっせと美女に良いところを見せようと動くヘレンをよそに、両腕を袖にしまいながら俺達の前にやってくる。かんざしの挿した赤い髪に、同じ色の瞳。何処かの令嬢の様な気品さに、同性のメンタルを持つアレイクおよびレイシアは目を奪われていた。

 彼女は二人を覗き込む。何かを探る様にしげしげと眺めた後、何かに満足した様子でリューヒィは言った。


「瞳に光が宿っておる。グレンよ、ぬしの知己ちきは皆良い目をしとるな。おぬしを含めて」

「褒めてるんだよな、良くわからんが」

「よいよい。大した事ではありゃせん」

 俺が連れる騎士や冒険者達は合格ということらしい。どんな判断基準なのかやっぱり理解できない。多分、理屈じゃないんだろう。


「それでグレンさん、そちらの方は誰なんですか?」

「ああ紹介する。ドラヘル大陸の案内人だ」

「リューヒィじゃ。よろしくの」


 古風な言葉遣い、こっちの文化にはない漢服、ミステリアスという要素を含んだ美女と騎士達は遅れて挨拶を交わした。

「で、リューヒィ。護衛者とやらは連れてきてるのか?」

「もちろん。ちょいと名の知れた冒険者じゃよ」

「何処にいるんだ。まさかさっきの荷台引いてた人が実は護衛に雇った奴ってオチじゃないよな」

「まさかもなにも、おるではないか? そこにのう」

 指をさしたのは、俺達の背後である。


 それぞれが振り返り、そして驚いて声をあげる。異質な人物の姿にぎょっとする者もいれば、敵と勘違いして身構えそうになった者もいる。

 一言でいうなら黒い包帯をグルグル巻きにされたミイラの様な恰好だった。黒装束に足袋を履き、顔も黒子くろこに似た頭巾に隠されて表情も見えない。枯れ木の様に細身で、長身の性別不明の人。

 日本の忍、歌舞伎の背景役者の様な出で立ちに俺とアレイクは特に驚いた。


「パルダという。儂の護衛に就いたS級の冒険者でなぁ腕はお墨付きよ。こやつも今回の旅についてくるので皆の衆、お見知りおきを頼むぞい」

「ぱ、パルダ……首狩りパルダ……!」


 荷物運びをしていたヘレンが荷を抱えたまま戦慄した。兄より幾分かはまともな筈の弟クライトも開いた口が塞がらないまま震えだす。

「リュリュリューヒィ殿……! 何処から、こんな大物をお連れに……!?」

「だから言うておろうに。個人契約を結んでおる」


 黒装束の冒険者は、寡黙なままだった。というか、一言もしゃべらない。直立不動のまま、俺達の前にただずんでいる。


「なあヘレン、首狩りって物騒な異名だが何なの賞金首?」

「馬鹿者! 貴様知らぬのか!? このパルダという者はなぁ、かつてA級冒険者が最低数名を要する難易度とされるヒドラが群生で町を攻めてきた時、一人で奴等を相手にし、無傷で生還したどころか一匹残らず仕留めた冒険者だぞ!? ヒドラは多頭の蛇の魔物。つまりは頭を全て潰さねば奴等は倒せん。故に一人で奴等の首をゴロゴロと落としていった場面を目撃した者の口から……首狩りと……」

 要するに、同じ冒険者からでも恐ろしい奴らしい。だがその物々しい恰好でも全然野蛮そうな雰囲気は全く感じないんだがなぁ。むしろ、話さない分大人しい印象が植え付けられた。


「ちなみにレベルはいくつ?」

「52じゃ」

「ソイツはとんでもねぇ」

 代弁したリューヒィの答えには予想を超えていて心底驚いた。魔物と戦うのももうコイツ一人で良いんじゃないかな?


「とりあえず、そんなすげぇ奴が味方になってくれるなら助かる。よろしくな……えっとパルダ……くん?」

 俺の方から手を差し出すも黒装束のパルダは引っ込み、街の建物の隙間に消えていった。つれないなぁ。


「すまぬ。あやつはシャイでの。本来なら他の冒険者達と共に依頼を受ける様な事はしないんじゃが、無理を言って連れてきた。無礼を許せ。気になることがあれば儂を通して答えよう」

 どうやら影で俺達に付き従う様で、表だって仲良くするつもりは無い様だ。潜んでいるところが見た目通り暗殺者っぽい。

 あの姿じゃかえって目立つんじゃないかと思うが、リューヒィに指摘されるまで気配に気付かなかった。隠密という点では二重丸の合格点だ。


 まぁこれでドラヘル大陸までのパーティーは揃った。俺にレイシアとアレイク、ヘレン兄弟に首狩りパルダの六人が闘い、俺達にとって未知の大陸をリューヒィが案内役になる。



「ああ、お待ちくださいグレムリンさん」

 馬車に乗り込もう、と息巻いた所でここまでリューヒィの荷を引き込んでいたギルド署員が待ったをかけた。出鼻をくじかれた。


「なんでござんしょうか?」

「今回の出発に募集していた貼り紙、まだ締め切っていないですよ」

「……すっかり忘れてた。それならいいよもう剥がしちゃって。ロクな参加はなさそうだし取り下げで」

「ですが一名だけ、もう斡旋所には顔を出さないだろうと告げたのですが一目で判断しても良いから募集の受託をしたいと希望されてる方がおりまして」


 一目で判断だ? それは大した自信家だ。それか俺を軽んじて言ってるのかな。

「ソイツは、斡旋所内で待ってるのか?」

「それは……あ、来ました。彼女です。前日から志願して取りやめていない唯一の参加希望者ですよ。……これは、個人的な感想ですが面通しをお薦めします。損はしないかと」


 署員に促され、俺達はこちらにやってくる人物に視線を集めた。

 魔導士のローブに古めかしいつば広の帽子。珍しい銀色の髪に紫水晶アメジストの瞳。


「おやまあロギアナ。まさかアンタが希望者か」

 悠々と無表情で歩む少女を見て、俺は覚えのある名を口にした。

 彼女とは希薄ながらも幾度かの面識がある。一度目はロックリザードの受付。二度目は勇者カイルの暴虐を制止。三度目はまた受付番をしていた所で声を掛け、四度目は再びカイルの来訪時に遠目で静観していた姿を目撃した。


「貴女はあの勇者のお仲間でしたよね。グレンさんに何か御用でも?」

 顔を張り詰めたアレイクが口を出した。墓所でのやり取りで勇者一行へのヘイトを貯めているアレイクにとって、彼女の認識は何もしてなくとも敵に近い。


「依頼の受理を志願しに」

 横目で新米騎士を一瞥した後、さほど興味もなさそうに端的にロギアナは言った。


「ドラヘル大陸までの長期的な旅に同行するのにか? 勇者の方は大丈夫なのか。勝手に受けちまってよ」

「パーティの選択に強制はない。雇われてただけ。今回も同じ」

「そうなんだ。他に目的とかあるの? あっちの大陸に行かなきゃならない事とか。寄り道出来るか分からねぇぜ?」


 不愛想な態度ながら、首を左右に振る。するとグレイ寄りの銀の髪も揺れる。

「金」

 俺は眉を顰ませる。確かに報酬の旨みは高めに設定しておいた。その分では彼女が依頼を受けるのは不自然ではない。あとは面倒かどうかや安全性、自分が被るデメリットとメリットなどを天秤にかけ、判断を下すだけの話になってくる。


 だが俺自身は気にしないが、俺は勇者達とは実質敵対に近い関係だ(しかも向こうから一方的に)。その勇者カイルの陣営側の人間が俺に同行するというのは本人含め大丈夫なのだろうか。


「質問が無いなら判断して」

「良いわけないでしょう! 貴女のところの勇者は、グレンさんに何をしたか分かってますか!?」

「アレイク、落ち着け。ロギアナは実質何もしちゃいねぇ」

「何もせず見てたってことは、加害者に加担してるのも同じです! アイツの味方なんですよ! それで引き入れて貰おうだなんて虫が良すぎる!」

「無茶言うなよ……アレは仕方ない」

 相当腹に据えかねていたらしい。そりゃそうか、あの勇者は死んだオーランド達の死を侮辱した。その仲間というくくりにだって怒りの牙が向かうのは変な話ではない。


「受託とは関係の無い事」

 さっくりと、切り捨てる。アレイクが目を吊り上げた。手を出しそうにまでなるので俺が決着を持ち込む。


「条件を達成しているんだろうな」

「LV33。他には特になかった筈」

「ああその通りだ。それなら不服は無い。アンタを入れるよ、報酬は掲示した通り払う」

「グレンさん!?」


 言下を下した事が信じられないという表情を見ながら、話を続ける。それはアレイクの説得も兼ねていた。

「今の面子は何より魔法役が少ない。レイシアやアレイクも使えるが専門って程じゃあないし二人も近接メインだ。だから、魔法のスペシャリストがいる。結構使えるんだろ? 魔法」

「上級までなら五属性。その上は一つ二つ」


 聞くまでもなかったな。即決できたのも、レベルの高さと彼女の髪が理由だ。

 レイシアの光属性の魔力の使用時に起きる髪の変貌もそうだが、魔力の高さで髪の色が属性に傾向しているケースというものがある。


 基本的な五種の属性に秀でた魔力を持つ者は、混ざったような灰--銀色の髪をしているという話を聞いた事があった。魔術師は魔力を使う分、髪の色で判別しやすい。つまり、銀の髪の魔術師は高位な存在である可能性が高い事を示唆する。

 一目で判断しろ、というのもギルド署員がわざわざ勧めたのもそういう事だ。


「戦力としては申し分ないんだ。仕事に好き嫌いでやってくわけにはいかないだろ? アイツはお前の倍近いレベルで、確実に役に立つよ」

 アレイクは諭され、ようやく引いた。


 ロギアナは慣れ合うという気配は微塵も見せずとも一応皆に会釈をした。ヘレンは美女が増えたと喜び、リューヒィは目を凝らしている。

 一同が馬車に乗り始めたところで俺はリューヒィに声を掛けた。


「わりい。勝手に決めちまって」

「構わぬ、ぬしが選んだのじゃ。文句は言わぬよ」

「その感じだとお前的には不合格ってか?」

「いいや」


 リューヒィは含みを持たせた口調で俺に向かってこう言う。

「どちらとも言えぬのう。あの者の瞳は濁っておるが、鈍く光っておった。ある意味では皆とは一線を画すかのう」

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