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俺の追憶、憤怒のローグ その2

長くなります!


 少年ローグは、6歳にしてすぐにこの世界についての勉強を始める。

 前世で現代の世界と生きていた時とは異なる文化、慣習、言語については家族をすこぶる感心させるほどに取り組んだ。

 少年の家系--レオンハルト家は中流の貴族。上流階級への参入を目指す事にとりわけ意欲的な家柄で、父は少年の兄エリオットの銀髪にその成り上がれるチャンスを見ていた。


 この世界の概念では、髪は各々の持つ魔力の属性に影響される性質があった。銀は5種の魔力が高い適性を持つ証明でもあり、社会での活躍に有望視する大きな要因となっている。つまり長男である彼が父の跡継ぎとして最有力にあがっており、将来性があるのだ。


 兄とは違って銀髪に産まれなかった少年だが、当人としては好都合に感じていた。妙なしがらみに縛られる事なく、自分のやりたい事が自由にできると考えたからだ。

 中流貴族の跡継ぎの候補からほぼ外れた状態である彼は、比較的決まりが緩くされている。街へ遊びに行く事や庶民との交流も許された。

 だが平々凡々とした裏では、図書や書斎などに赴き、人知れぬところで勉学に励んだ。魔法、剣術に武道。少し我が儘を言って家庭教師も雇って貰ったりした。


 その貪欲とも言える打ち込みは異常だと思われる事を危惧し、出来るだけ怪しまれぬ為の工夫にも努めた。それは子供としては目的と計画性に秀でた物だった。


 反して兄は髪色という産まれつきの才覚で周囲に持て囃されていたからか、知らず知らず自堕落さを招く事になった。心なしか肉付きも良くなっている気がする。

 ろくすっぽ勉強とせず弟が稽古に励んでいようと知らぬ存ぜぬ。殆ど怠けて暮らしている。


 しかし少年にとってそんな事情はさほど重要ではない。自分は自分、彼は彼の道をいく。

 それよりも彼には目標があった。前世を思い出す前から夢見ていた事を実現させる為にひたすら準備を推し進めていた。


 少年の住まう国ペテルギウスでは、少し遠い未来に迫る脅威の予言によって、対抗する為に勇者となりうる人材を育てる教育機関を設ける話があった。

 その選抜は厳しく、庶民は弾かれ、力と学びを求められ、幾多の試練を乗り越えてたった1名だけがなれるという狭き門だった。


 転生者である少年はその成り行きから自負があった。この為に自分は貴族に産まれ、多くの人間を救える存在になれるのだと確信めいた予感を覚えた。

 中流貴族の跡取りではなく、もっと高みへ。その下積みが少年時代の生き甲斐であった。


 数年の年月が経ち、目に見えるところからも秀才と呼ばれつつあった少年は、ようやくその勇者教育機関への申し込みを両親に相談した。

 家督が分配出来ない以上、兄弟の場合跡取りになれないどちらかはいずれ官僚や聖職者などの道を辿る。少年なりの自立する考えを話すと、反対はされなかった。最初は期待されていなかったのだが、兄以上の能力の高さで揺らいでいるのは感じ取っていた。戻る場所は用意してくれる理解もあった事は幸いだろう。


 だが、己の立ち位置に以前から危機感を覚えていた兄エリオットは、それを好機とばかりに少年を我が家から追い立てた。昔はあれほど優しかった兄も、保身に溺れた豚のような輩に成り果ててしまった。兄の矯正に関して無頓着な事に少し、後悔する。

 かくして少年は家を出、後に勇者候補としてその活躍を街中に知らしめる事となる。



 さらに数年。抜擢した護衛者と共に行動し、各国を冒険者のように旅をしてペテルギウスが抱える問題の解決に勤しむ。

 その旅の護衛のお供だが、幼少期に自由を許された事で交流のあった幼馴染みの少女が青年に付き従っている。少女はミリーという元孤児で、猫種の半獣人であった。


 ふとした出来事で彼女と関わりを持ったことで、下積みをしていた同時期から以来勇者を目指す彼の相棒を目指していた。一緒に剣や魔法の訓練を行ったほどの仲だった。


 黒のショート髪と耳に尻尾が特徴の彼女。人と獣の割合が8対2程度という絶妙な黄金比--混血の獣人は、この世界でも稀だった。

 華奢な外見とは裏腹に、彼女は青年に負けず劣らずの腕前を持つ冒険者である。何より少年との連携は一心同体で幾多の強力な魔物を倒してきた。


 そして、二人は恋仲でもあった。青年の目的には、半獣人として差別されがちな彼女の立場を撤廃させることも含まれるようになっていた。

 ロー、という愛称で青年を呼びはにかむミリー。彼女がいることでその道中でも心満たされる毎日を彼は送っていた。

 たが、それはいつまでも続かなかった。


 あくる日の事である、とある街で事件が起こった。

 予言の一説に記載された、天の王--ドラゴンの襲来だった。各村にも被害を及ぼし、まっすぐ王都に向かっているという報告を受ける。


 ペテルギウス王によって、ただちに勇者候補の青年は竜の討伐を命じられた。これを果たせば彼は無事勇者として認められる。そう息巻いていた。


 だが、竜は狡猾だった。まるでこちらの対応を予想していたかのように、アルデバラン領の方へ進路を変えた。


 慌てて二人か向かった頃には既に嵐は傷跡を残していた。王城は無事であったが付近の街が焼かれ、貴族が食われたそうだ。迎え撃つ気でいた青年達は、まんまと出し抜かれてしまった。

 それでも次なる被害を抑える為に、飛び立った黒き竜を追いかけた。目撃談や手かがりを辿り、潜んでいそうな廃村や山々を巡る。


 そうして別の町を襲おうとした黒竜と出会う。人語を介した角折れのドラゴンとは熾烈な戦いを繰り広げた。

 しかし竜を取り逃がしてしまう。海を渡り、青年達の住まう大陸から離れてしまった。

 どうにか追い払った事にはなるが、討伐を果たせなかった。それは、いつしか人々の青年に対する猜疑の種を蒔く事になる。


 彼は果たして勇者なのだろうか? もしかしたら紛い物ではないのか?

 人生の勝ち組の失敗は、民衆にとって絶好の矛先となる。


 さらに、嵐のような出来事は連鎖した。

 その一ヶ月後、父に一度帰宅せよという手紙が届き、久方ぶりにレオンハルト家に戻った時だった。


 ローグ、家を継いでくれないか?

 家督の話が今になって青年に持ち出された。青年は勇者として失格ではないか、という風評を耳にしての判断だそうだ。

 兄は、受け継ぐには向いていない。ローグ、お前ならば任せられる。そんな父の懇願を聞き、青年は迷う。


 自分はレオンハルト家を出た身として、家督に相応しいとは思っていない。だが、聞いた話では兄エリオットの周囲への振る舞い、暴挙は到底看過できない物だという。このままでは我が家は衰退する。だから頼むと、父に頭を下げられた。


 すぐには答えを出せず、返事をするのに数日の時間を貰った翌日。兄の凶行は始まった。

 その話がどうしてか彼の耳に届いてしまっていた。


 青年が帰宅した夜、食卓が血に染まっていた。エリオットは、見知らぬ男と共に醜悪な笑みで弟を出迎える。

 仔細は単純だった。金で暗殺者を雇い、父と母を殺め、そして実の弟を亡き者にしようとする。


 お前が優秀なのが悪い。兄を差し置いて、立場を奪おうとするな。

 青年は抗った。腐っても勇者候補、場数を踏んだ彼はどうにか刺客を撃退する。金で雇われた身の暗殺者は、信頼のない雇い主を見限り逃亡した。

 俺だって天才だ! エリオットは魔法を扱う。しかしこれまでの怠慢が兄弟の実力の差を分けた。5つの属性魔力を内包しておきながら、銀髪の兄は下級の炎魔法(イグニート)しか放てなかったのだ。


 容易く地面に打ち倒し、青年は兄を追い詰めた。許しがたかった。理解のある二人は、兄にも別の道を用意させる話だってしていたのに。そこもきちんと聞いていた筈だったのに。ここまでして、立場が惜しいか。


 必死に謝罪を口にし、地べたで降参のように両手をあげる兄。拘束しようと近づいたところで、忍ばせていたナイフで襲ってくる。

 まるでなっていない動作に、青年は剣で弾き丸腰の兄に振りかぶる。


 銀髪の豚は言った。俺達、兄弟だろ?

 青年は答えた。昨日まではな。

 そして、一太刀を加えた。皮を切る程度の浅い一撃で戦意を損なわせるつもりだった。


 腰を抜かし、高価な衣服を鮮血で汚したエリオットは情けない悲鳴をあげた。弟にすべて劣った現実に彼はやがて発狂しながら廊下を飛び出し、階段に転がり落ちた。事故だった。

 レオンハルト家は青年一人になった。どうしてこうなったのか、自分でも分からない。ただ、こんな事望んでいなかったのに。


 しかし、事態は収束しなかった。この騒ぎに乗じて我が家に大勢の人間が上がり込む。

 青年が鎮圧した現場に騎士達が押し掛ける。事情を説明しようとしたところ、なんと青年に枷を嵌めたのだ。


 兄の置き土産である。エリオットは弟をこの狂乱を起こした犯人に仕立て上げる為、事前に通報をしていたのだ。自己防衛という名目で死体にすれば、真実は語れないだろうと考えて。ペテルギウスの騎士達は、証人になろうとした使用人の言葉より亡きエリオットの言葉を信じた。

 青年が斬り捨てて階段から突き落としたような光景になった為、弁解が難しかった。


 そうして青年は勇者ではないという疑いに拍車を掛けられ、衆目に罵声や罵りを受けて連行。家族を殺めた大罪人として投獄されることとなった。日の目を二度と見れない判決を言い渡される。


 ミリーとは、実家に戻る時に別れてから再会出来ることなく、牢の世界に閉じ込められた。

 

 

二話連続更新です!

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