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俺の乱戦、鉄鋼のガルガ

 竜人が変化で本領を発揮した事により、戦場は数の差から粒の差に塗り替わる。

 空を滑空し、大地を踏み荒らす。三桁に及ぶドラゴンの軍勢が息吹や尻尾で兵達を薙ぎ払っていく。

 彼らは理性の無い魔物と異なり、味方の兵との区別も付くし状況によっては連携もこなす。相当な脅威だろう。


 丘の上でそんな光景を見降ろすのは中々壮観だった。圧倒的じゃないか。世界が燃えちまう訳だ。いや燃やしちゃ不味い。


 別の離れた所では晴れた青空から落雷が無数に降っていた。群衆に向かって落ちてる辺り、あそこらへんはレイシアが暴れてるんだろうなぁ。


「これでこっちが優勢になるだろう。増援が来なければこのまま制圧--」

「いたぞぉおおお!」

「ゴブリンをやれ! 人質にすりゃ竜を止められるぞ!」

 背中に罵声が飛んでくる。真正面からの対決を避けて頭を狙って来たか。


 俺は竜馬を走らせた。普通の馬の脚力じゃ到底追って来れまい。徒歩なら論外だ。

 追手を巻く最中で戦場にも混じった。味方陣営で窮地に追いやられている所に割り込み、籠手弩ガンドレットボウで援護射撃。短矢に雷属性や水属性の付与エンチャントさせて動きを阻害して回る。

 小賢しいやり方だが、こちらの被害を最優先に減らす上で欠かせない。順列を作るがどちらにせよ、少しでも犠牲者を出すのは避けたい。

 

 チェスの駒で言うナイトの様な挙動で飛び回る俺の活躍だが、いよいよ限界に辿り着く。

「チェェイ!」

 進路に差し迫る、鋼の幅広な板の塊。それが巨剣である事を気付いた時には遅かった。

「ぎゃんッ!」

 竜馬の胴体に叩き込まれた重い衝撃によって、俺は空へと身を投げ出される。重量に見合わず素早い。

 一撃で事切れた竜馬が倒れる事は、機動力を削がれた事を意味する。地面に着地しながら、危惧していた事態に頭を切り替える。


「おおっと大当たり」

 大男は身の丈に勝る大剣を片手で肩に担ぎ、俺の前に立ちはだかる。

「適当に振ったら目玉のゴブリンと出くわしたか」

「俺から見ても出くわしたのは大物かな?」

「おうとも。俺はS級3位、鉄鋼のガルガ。よろしくな」

 短い黒髪に筋骨隆々の人間は名乗り上げる。殺し合いの場だというのに、呑気というか陽気に挨拶をかまして来た。


「あの竜達を配下にする様な奴だ。是非手合わせ願いたいんだが。名乗って貰っても良いか?」

「グレン・グレムリン」

「良い名じゃないか。では早速行くぜ」

 開いた片手斧ハチェットを手にする。やるしかないな。

 と思いきや、息巻いたガルガを水を差す様に、周りから兵や冒険者達が押し寄せる。敵は彼だけじゃない。


「生死を問わん! 奴を仕留めろォ!」

「首を獲るのは俺だァ!」

「あー、やっぱり一対一といかないな。悪いグレン」

 頭を掻いてガルガは詫びる。

「此処は戦場だからよ、条件整えてる暇無いんだわ」

「御心配どー……もッ!」


 兵の振りかぶった剣を回避。敵意剥き出しの殺陣が繰り広げられた。

 単調な攻撃ならまだ対応できる。小柄な体躯を活かして紙一重の攻防を続ける。

 ハチェットでの戦闘に限界を感じ始めたところで、背後から冒険者の一人が襲って来た。

「取ったァ!」

 事前に武器を叩き落とした所、敵は俺を羽交い締めにして無力化させる。不意を突かれたか。


「良いぞ! これでトドメだァ!」

硬御こうぎょ

 連携して前方から全力の一太刀が俺に直撃。どんなにレベルを上げて肉体を鍛えようと、普通の人間なら確実に致命傷を受けるだろう。



 が、剣は堅い金属の音を立てて欠けた。刀身を失い、斬り付けた相手は目を点にした。

「へ? --ガボォ!?」

「邪魔」

 俺は硬化させた爪先で顔を蹴り、歯を砕く。次は俺を抑えつけてる奴だな。

 頭で振り返ると名も知らぬ敵の冒険者は抵抗させまいとぐっと、俺の両肩に通した腕をキツく締めた。

 確かに、俺の闘技とうぎはこうして組まれて拘束される事に弱い。硬御こうぎょは関節技には無力だし、崩拳ほうけんも当てる事が出来ない。


身体付与フィジカルエンチャント

 だから、その対策だってきちんと考えてある。扱う魔力の属性は雷。全身にくまなく駆け巡る。

雷光乃衣らいこうのえ!」

「ぎ、ぎぁあああああ?!」

 全身に雷属性の付与エンチャントを纏い、俺に張り付いていた相手を感電させた。相手と魔力を繋げなければ触れた相手は当然痺れる。


 硬直した隙に拘束から抜け出し、確実に仕留める為に拳をひいた。

崩拳ほうけん!」

 無防備になった冒険者は鳩尾に衝撃を受けて吹き飛ぶ。周囲の兵を巻き添えに離れた所にまで追いやった。


「おおう、すげぇな。色んな事が出来るのか」

「驚いたか? 相手にしたくないなら見逃してくれても良いんだぜ」

 鉄鋼のガルガが称賛する。だが素直に喜べない。いくつも手の内を見せてしまったな。モブが迂闊に近づいて来なくなったのは良い事だが。


「いいや、俄然やる気出た。兵達も警戒してくれたおかげで邪魔も入らなくなったし、やろうか」

 大きな剣を空に高々と掲げ、目の前で振るう。風圧で砂塵が舞った。

「やっぱダメか。仕方ない」

 小手先ではやられると考え、片手斧を収納して素手を構える。リーチは奴の方が有利だが、動きやすさには俺の方が分がある。間合いに入って一撃で終わらせたい。

 まがりなりにもS級の相手。ダックスハント並みか、あるいは遥かに格上か。


 俺の方から飛び出した。応じたガルガは身の丈もある大きな剣を袈裟切りに振り落とす。縦に断つ一撃を横合いにすり抜ける。重い一撃を繰り出す欠点として、小回りが利かない。隙が出来た。

「ぬんっ」

 間合いにまで接近すると、大剣を持ち替えて刃の断面を水平にした。そのまま一回転しながら俺ごと薙ぎ払おうとする。かなりの重量になる鋼の塊を、そんなに軽々と振り回すか。

 でも、俺だってまだ回避できる。軽く地を跳ね、その一撃を飛び越える。


 相手が回る勢いで背を向けてる間に、拳を握り奴の胴体を狙う。

 奴は首だけをぐるりと向いた。間一髪剣の柄を引き、大剣の腹を盾にした。

砦反衝さいはんしょう!」

 敵が繰り出したのは防御の闘技とうぎ。ヘレンも使っていた、威力を弾き返すカウンター。


 構うか。跳ね返される分も一緒に打ち飛ばしてやる。

多連崩拳たれんほうけん!」

 反射によって幾分かがそっくり返って来た崩拳ほうけんの衝撃を相殺しながら、剣の腹に叩き込む。

 鈍い手ごたえ。ガードしたガルガは防御を超過した崩拳ほうけんによって数メートルほど後退するが、体勢を殆ど崩さない。あの厚みじゃ、崩拳ほうけん数発で大剣は歪みもしないか。


「へぇ! やるねぇ!」

「おたくもそんなデカイのを良くブン回せるな」

 近づいたあの一瞬の間にあの大剣で3手も動かせるとかどんな筋力してるんだ? 明らかにパワータイプの癖に繊細な芸当も可能だとは。

 少しの接触で分かる。コイツ、今までやり合って来た真人間の中でも指折りで強い。さっきのウサギ野郎やダックスハントとは--彼女には悪いが--格が違う。様子見なんてしてたらやられるな。


 対して奴は楽しんでいる表情を見せている。はしゃいでいた。

「こんな相手と闘えるなんて初めてだなぁ! 何を仕掛けてくるか分からない。まだ何か隠してるんだろ!?」

「お互い様じゃないのか?」

「ああ! じゃあ俺から見せようか。耐えてくれよ」


 よしてくれ、なんて俺の胸中をよそにガルガは大剣を扇の様に一仰ぎする。

 すると奴の両足の下に亀裂が走り、見えない何かの重力を背負ったように見えた。

剛震爆砕刃ごうしんばくさいじん!」

 もう一度、今度はそれ以上に思い切り振るうと同時に軌跡が裂けた。大地を割る衝撃が、こちらに突き進む。

 俺がかつて垣間見た斧の闘技とうぎと似通う一撃だった。ただ、これは射程と範囲を伸ばした上位互換と見て良いか。


 付き合う気はさらさら無いが、距離を加味すると今から下手に避けても被害が増すだけだろうか。なら硬御こうぎょを使い多少のダメージ覚悟でも受けるか。

 地面に崩拳ほうけんを打ち、食い込ませる。その状態で硬御こうぎょ。これで硬直してても簡単に吹き飛ばされない。

「来ォい!」


 大地を裂く烈波が目の前を通過した。轟音が、全身を包む。

 周囲の者まで吹き飛ばし、被害を産んだ。

 騒ぎが色濃くなる。やったか!? とかモロにくらった! 終わった! とか外野が好き勝手に言ってくれる。


 砂塵が晴れた頃、俺は硬御こうぎょを解く。流石に無傷とはいかなかったが健在。

「……派手にやってくれんなぁ」

「これも凌いだか! 面白いなお前!」

 己の渾身の技を防がれて尚、その顔に曇りは無い。まだまだやる気満々の様だ。


 はしゃぐのも勝手だが、こっちも遊んでる場合じゃない。このままジリ貧になるのも本意ではないな。

 とはいえ、奴は拳で殴るのに向いていないのも事実。物理攻撃を跳ね返す闘技とうぎを持っている為、少しでも扱いを間違えれば自分が受ける羽目に遭う。


 なら、別の手法で蹴散らすか。魔力を著しく消耗するが、S級の一人を此処で倒しておけば更に有利になる。

 周りにも味方はいない。好都合。巻き込まずに済む。


 片手に火の魔力を灯す。燃え上がる俺の紅蓮甲ぐれんこうを見て、

「おお、そっちの番か。良いだろう! 受けて立つ!」

「やれるもんならな。良いか? 死ぬなよ? 殺さない様に加減するのが難しいから先に言って置く」


 これは、火属性の魔力を付与エンチャントした崩拳ほうけんを無数に繰り出す紅蓮ぐれん多連崩拳たれんほうけん以上に強力で反面扱いが難しい大技。制御を間違えると暴発するし、この前パルダとの稽古でも失敗した。

 俺がドラヘル大陸から帰還して以降、自分のレベル上限以上に底上げしていたのは魔力の容量の方だった。あまりに激しい消耗で、これを使用してしまうと湯水どころではなく瞬く間に枯渇する恐れがある為。

 もちろんその見返りに、俺の実力は新たな次元へと昇華させた。


象形付与フォルムエンチャント

 普段以上に魔力回路へ負荷を掛け、火属性の付与エンチャントの規模を増していく。

 頭上に突き上げた右手の炎が膨らんだ。これまでの数倍以上の質量になっていく。それは天にまで届く様に--


 強敵との対決で上機嫌だった鉄鋼のガルガの顔が凍り付いた。俺でなく、俺の頭上にある物を見て唖然とする。

「……何だよ、それ」

「--朧火乃鉤爪オボロビノカギツメ


 俺を中心とした爆心地。大気が震え、戦場に大火の華が咲く。

 そして、その数秒後に繰り出された俺の一撃は、半径十数メートルの周囲を焦土へと変える。ガルガ含め敵兵たちは焦げ付いて転がる事になった。

次回更新予定日、2/19(日) 10:00

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