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俺は英雄、ヘレン その5

ゲリラ更新!

※サブタイで分かると思いますが視点が変わります

 外に出てみれば、パルダ達は既に決着をつけていたらしい。

 オブシドがその場で倒れているが生存している様で、勝者と思わしきパルダはこちらに脇目も振らずに駆けだした。


 アルマンディーダの手を取り、感極まった様子で口を開く。


「お二人とも! よくぞ! よくぞご無事で!」

「パルダ。心配を掛けた。おぬしにも困ったものよのう。おかげで助かってしもうた」

「咎ならいくらでも謹んでお受けいたします。……そんな事より、そのお怪我は大丈夫でございまするか?」

「なぁに掠り傷よ、すぐ治る」


 竜兵達が俺達の元に集い、そして片膝をつく。その前で横になっていたオブシドも起き上がろうとする。

「姫様……」

「よい、無理に立たずにそのまま楽にしておれ。儂が許す」

「……兵達には何の責はございません。代わりに私めに何なりと処罰を。角折りでも、断頭でも」

「何を言っとるこのたわけ。おぬしや皆が王を降した兄上に逆らえぬのは重々承知。過ぎた事はしかたなかろう。それより問題はこの先の事じゃろ」

「ねぇそれより早く離れた方が良くない? 地鳴りが止まないんだけどさぁ!」

「分ーかっとる、ちょっと待っておれすぐ済むから」


 竜人一同が竜姫アルマンディーダに平伏しているが、その間でも俺達の背後で火山が噴火の兆候を見せている。何を流暢なことやってんだか。

 

「おぬし、儂が王になる気が無いからスペサルテッドについたんじゃろ?」

「左様に」

「じゃがあやつは溶岩に落ちた。証人に見た兵が何人も此処におる」

 そう周囲に宣誓する。まだ事情を知らぬ兵達にも動揺が広がった。


「ということは儂が赤の一族の生き残り。つまり王位の権限は儂に委ねられたという事で異論は無いかのう?」

「アディ、それって」

「似つかわしくないやもしれぬ。民やオブシド、おぬしにも認められてはおらんだろう。何せ、儂は竜人の癖に竜になろうとはしない変わり者。そんな輩が王として竜人を率いようなどとは笑止千万じゃろう?」

 負傷した黒竜の男は身体だけを起こし、畏れ多いというのも覚悟の上で首を縦に振った。それが彼の本心。


「当然だの。しかし四の五のは言ってはおれん。父がこんなに早く逝去されるとは予想も出来ず、弟のガーネトルムまで亡くしてしもうた今、王になれるのは儂だけなのじゃ。必要とあらば、国の為に王となって身も心も殉じよう。過去の確執も、いずれは克服する事を約束する。それで手を打ってはもらえんかのう?」

「私めには、そこの未熟者パルダと違って王の言葉を受けては意思の決定はございません。服従を望まれるなら付き従い、死を望むならば自らお命を絶つ所存。その御心のままに」

「ならば儂の為に身を粉にすることを誓ってもらう。勝手に破滅する事は許さん。大方、兄上の服属でも同じ様に言われたんじゃろうし」

「異論はありません、誓います。何なりとご命令を」

「今は大人しく寝とれ。後で役に立ってもらうぞ」


 さて、とアルマンディーダは早速周囲に令を放った。

「此処から離れるとしよう。この調子だと下手すればトゥバンにも被害を被る可能性もある。そうならぬ様に手を打つのは勿論じゃが、被害を最小限にしておかねばな。民衆に退避の指示を送ってくれ」

「はっ。ただちに」一人の竜兵が翼を広げて夜空を飛んで行く。そのすれ違いに、別の竜が飛来する。


 竜人ではない。しかも小柄だった。俺も見覚えがある。

 子竜は人語を介し、フランクに俺を呼び掛ける。

「やぁグレン・グレムリン。何の心配もいらないと思っていたがやはり無事だった様だな」

「シャーデンフロイデ。お前だけで飛んできたのか? トリシャ達は大丈夫なんだろうな」

「今此処に連れて来た方が良かったかね? 少なくともそのまま置いていた方が安全だろう」

「回りくどい。無事なら無事とそう言えよ。で、ついでに何か言伝でも頼まれたなら早く言ってくれ」

「実に察しが良い。君達に伝える様に彼等に頼まれ事を一役買わせて貰った。一刻も早く此処から離れろ、と」

 クルクルと喉を転がし、元反逆者のシャーデンフロイデは話しながら俺の腕にまとわりついた。クソっ、鬱陶しい。


「言われんでも分かってるわい。こっちだって噴火する前に避難するつもりだったんだよ」

「ふぅむ。この忠告が余計なお世話だと思われては困る。別の意味でも危険だ、と吾輩は伝えに来たのだが」

「は? 噴火以外に何がヤバイっての?」

「それは……いや、説明はいらないだろう」

 小さな手が火山とは違う方向を指差す。それにつられて俺が視線をそちらに合わせた時、その異常な光景に俺は息を止める事になった。


 俺の名前はヘレン、いずれは英雄となる男だ。

 竜に近しい亜人達が住まう国、トゥバンのかつてない危機に立ち会った俺であるが、現在俺は冒険者の足になっていた。竜馬の運転手として、良いように使わされている。


 だがそんな事は今どうでもいい。今、それどころではないのだ。

「う、うう。うおおおおお」

 俺だけでなく、荷台にいたアレイク殿や弟のクライトも上空を見上げて言葉を失っていた。


 荷台から降りた銀髪の魔導士ロギアナ殿。彼女が、樫の木の杖を携えてブツブツと何かを唱えている。

「ロギ……アナ、そ、それ、何……」

「話し……かけないで……! 気が……散るから……!」

 歯切れも悪くアレイク殿の言葉を押しのけるロギアナ殿の横顔では、酷い脂汗が垂れていた。


 彼女がやっている事、それがその見上げた光景であると結びつけるには信じ難い。だが、アレはロギアナ殿の仕業なのだろう。


 浮遊大陸が鎮座していた。幅広く山をすっぽりと覆えてしまえる大きさだった。

投擲の地蓋落としレビ・ランド・ペルト……!」

 突如として表れたその正体は、直径数キロにも及ぶ地盤。大地の一端を見えない力で持ち上げる。表現するなら簡単だが、規模は明らかに個人で起こせるレベルではない人災そのものだった。


 魔法というものは専門外な俺ではにわか程度の知識なのだが、人が扱える階級で下級、中級、上級に次いで最大の天上級という格位があるそうだ。

 そして最大クラスの階級魔法を扱える者は極めて稀であり、それだけでも国で率先して保有したがられるらしく、魔導士の頂点の証なのである。又聞きの話だが。


 噴火の兆候が起こった時、トゥバンではちょっとした混乱が起きた。こちらに被害が降りかかるのではないかと、皆の心配がピークに達した時、

「私が何とかする」と、その危機を打破する事を宣誓した彼女に先導され、街から離れた平野に我等は飛び出して今に至る。

 どうやらロギアナ殿は、天上級の地属性最大魔法で噴火を間近とする火山を抑え込もうと考えている様だ。あまりに巨大な岩盤を使い、それで山の噴出口に蓋をするという理屈としては単純なーーそれでいてとんでもない力技である。


「凄いぞロギアナ殿! こんな魔法を扱えるとはやはりタダ者ではないのだな!」

「……だ、から……集中ゥ……!」

「あ! す、すまない!」

 女性らしからぬ、鉄棒を捻じ曲げるのもかくやという声でロギアナ殿は唸った。


 遠くの夜空から大陸が徐々に火山に向かって落下していくのを眺めていると、火山の鳴動が徐々に大きさを増していく。これは急いだほうが良いのかもしれん。頑張って急いでくれ、ロギアナ殿!

 だがゆったりとした噴火の予兆に反して、突然山頂が紅く輝きを発し始めた。明らかな異変。



 --神炎の火竜砲ヴァルド・ラ・ウルカヌス


「んなっ!?」

「何だアレは!?」

 飛び出したのはマグマでは無かった。大きな火柱が立ち昇った。目を焼く様な眩しい光芒は、遥か上空へ伸びていく。

 火柱は、ロギアナ殿が呼び出した大陸サイズの大岩へと届き、なんと粉々に砕け散らしたのだ。


 大爆発が起こる。燃え上がった残骸と破片が周囲に降り注ぎ、その眼下に大地の終末を体現していた。もし我等がそこにいれば、無事では済まなかっただろう。

 魔法を撃破された。その事実に、作意を覚える。当然だ。突然火山から飛び出した炎が、蓋をしようとした岩を吹き飛ばすなど偶然にしては出来過ぎている。


「……うっぐ」

「ロギアナ! 大丈夫?」

 アレイク殿が精魂尽き果てた様子で地面に崩れるロギアナ殿の元へ駆け寄る。


「……天上級は、魔力を甚大に浪費。連発は無理。杖の魔力回路が持たないし休息もいる」

「しかしさっきのは一体……。我等の行動を阻害するという事は味方ではないのであろう。それにあの火柱が噴いた途端、地鳴りも止まった。あちらに何が起きているというのだ」

「嫌な予感がするな兄者。もしかするとだが、アディ殿は……」

「クライト、そんなことは考えるな! まだ決まった訳ではない! あちらにはゴブリンとパルダ殿が行ったのであろう!? 我等のやれる事はやった。後は信じて待つしかない」


 我等はあの崖で別れたパルダ殿に頼まれ、トゥバンへの呼び掛けを終えた。後は采配を待つだけである。

 歯がゆいが、俺の役目は此処までだ。……断じて、火山に行きたくないのではないぞ! 人には人の、役割があり、俺はこちらで皆を移動させるのが責務なのだ。

 そしてアレイク殿の説得は想像以上の功績で、事は思った以上にスムーズに運んだ。それが、吉となればよいのだが--


 遠くで、小鳥の様に小さなおびただしい飛影が火山に向かって飛んで行く。野生の生き物なら、天災から逃げていく筈だが彼等は違う。

「うまくやるのだぞ」

 火山からの攻撃におののく竜馬をなだめながら、俺はかのゴブリンに向けて呟いた。

次回更新予定日、10/3(月) 7:00

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