33・2ゲームと真実
あなたは二十年
前のユリウス国王即位についての経緯を知っているかしら?
暗い表情でそう尋ねるシンシア。
ユリウスと私の父が様々な悪事を働いてクラウスから簒奪したことなら知っているわ、と答えると彼女は大きく目を見開いてフリーズした。
それからかなりの間をあけてから、大きく息を吐いた。
「そう。よかった。……いえ、良いことではないけれど、あなたに説明するのが辛かったの」
彼女はカップをとって、令嬢らしからぬ勢いでお茶をごくごくと飲んだ。きっと苦しい思いを抱えてここへ来てくれたのだろう。
「春にルクレツィアから教えてもらったの。クラウス対策の一環でね」
「そう。ルクレツィアも知っているのね」とシンシア。
「大丈夫、私たちはどんな話でも受けとめられるわ」
にこりと笑うと、彼女はようやく安堵の表情を見せた。
先の国王の三人の殿下が亡くなった事故。その調査に当たった二人の調査官が報告書と共に行方不明になった。未だにみつかっていない。
彼女はそう説明してから、再び『怪文書事件』の文字を指した。
「怪文書は、その調査官たちはワイズナリー軍務大臣が殺害した、という内容なの」
「ワ…」
絶句する。ワイズナリー軍務大臣はジョナサンの父親だ。
彼は父一派だけれど、二十年前の件に関わっているとは思っていなかった。てっきり父とユリウス二人の悪行だとばかり思い込んでいたのだ。父とワイズナリーは実は仲がそれほど良くないと聞いていたからかもしれない。
「……ジョナサンは良い人みたいよね」シンシアがポツリと言う。
「それからね、調査官についてアンヌはご存知?」
言葉が出なくて首を横に振る。
「一人は、グスタフ・ヒンデミット。ウェルナーの父親よ」
息を飲む。
一体どういうことなのだろう。
当時ウェルナーは八歳。父親は三十で、内務省の役人だった、とシンシアは続けた。国王の勅令を受けての調査官就任だったという。それだけ信頼の厚い人物だったのだ。
ふといつだったか、自慢話をするジョナサンをウェルナーが父親のような眼差しで微笑ましく見ていたことを思い出した。
そんな怪文書が出たら、二人はどうなってしまうのだろう。
「ゲームだとね、怪文書を撒いた犯人はわからないままなの。だけどね、ウェルナーやクラウスは疑われて立場が悪くなるの」
「クラウスも?」
「ウェルナーの友人だし、宰相側に恨みを持っていておかしくないでしょう? だからよ。主人公は落ち込んでいるクラウスをうまく励まして好感度があげるの」
「犯人がわからないなら防ぎようがないのね」
「実はクラウスのことは帰って来て以来、行動にずっと注意を払ってきたの」
なぜ?と首をかしげる。
「ゲームのクラウスって誰のルートでもエンドで旅に出たりして姿を消すらしいの。そうならないのが唯一、主人公とのハピエン。心配でしょう?」
「誰のルートでも?」
「ええ。二十年前のことで立場が悪くなるのだと思うの。で、話を戻すけれど、クラウスが怪文書を用意してる様子はないけど、最近密談が増えているから心配なのよね」
密談?とまた首をかしげる。うなずくシンシア。
「密談って、本当に密談なの。クラウス、ブルーノ、ラルフ、アレンの四人で」
「何を密談するの? 二十年前のこと?」
この話の流れだと……
「まさか従者たちも二十年前に関係があるの?」
「それはないと思うのよ。ブルーノは地方の警備隊を務める家系のようだけど、当時すでに修道騎士で、ラルフはその見習いだったようよ。彼は近くの孤児院からリヒテンに入ったみたい。アレンは前に話した通り。地方に住む両親と手紙のやり取りをしているから、ウェルナーのように親が巻き込まれた、ということはないと思う」
「……じゃあ一体何の密談?」
分からないわとシンシアは首を横に振った。




