表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/251

31・1狭量

 今年の誕生日は色々と例年とは異なった。屋敷で開かれる夜会にクリズウィッドが招かれ、父も一応は自分が選んだ婚約者をもてなした。母も兄一家もそれなりにきちんと対応した。私たちが婚約してから初めのことだ。


 クリズウィッドは、戸惑うなあ、とこそっと伝えてきたけれど、そつのない振る舞いをしてくれて、表面的には和やかだった。


 他の面子はほぼ変わりなく父一派の人々で、毎年来ているジョナサンも来て、豪華な首飾りのプレゼントと共に

「おかしいな。君の隣に似合うのは僕のはずなのにな」

 という勘違い発言をかましていった。


 思わずこぼれそうになるため息をなんとか飲み込んで。だけどジョナサンにもらったプレゼントなんて絶対に身に付けられないなと気づいて、結局はため息をついた。

 再来月にルクレツィアの誕生日があるから、パーティーに彼を呼ぶ作戦を練ろう。


 一方で親友主催の誕生パーティーは、まったくの例年通りだった。ちょこっとだけクラウスとウェルナーが呼ばれるかなと思っていたけど、そんなこともなかった。そりゃ親しくしちゃまずい攻略対象たちだからね。


 シンシアからは可愛い小鳥のブローチが届いた。



 ◇◇



 誕生日から一週間ほどが過ぎて。

 ルクレツィアの元から帰ろうと廊下を歩いていると、ばったりラルフに会った。一人だ。見送りの侍女に、主人を見なかったかと尋ねている。見失ってしまったという。


 先ほどまでクリズウィッドも一緒だったけど、クラウスはいなかったと伝えると彼は困ったように頭をかいた。


「それならサロンですかね。あそこは肉食獣の巣だから、苦手なんですよ」

 思わずぷっと吹き出してしまった。ラルフはイケメンだけど、かなりお堅い。俗世間に戻って一年が経つようだけど、いまだに女性に慣れないらしい。

「いいわ、私も一緒に行きましょう」


 ラルフは慌てた様子で断ってきたけれど、なかなか命の恩人たちにその恩を返す機会がないのだ。これくらいは協力させてほしい。そう話して二人でサロンに向かった。


 あ、また軽率だと怒られる、と気づいたのは見送りの侍女に下がってもらった後だった。


 まあいいか、と二人で並んで歩いていると、ラルフはキョロキョロと辺りを見回したあとに、小声で

「お誕生日おめでとうございます」

 と言った。

「ありがとう。……なぜ小声?」

 苦笑するラルフ。

「内緒ですけどね。あなたの婚約者様は、あなたが他の男性に祝われるのはお嫌なようですよ」

 思わぬことに驚いて足を止めた。

「どういうこと?」

「そのままですよ。あなたが目移りしないようにではないでしょうか」


 クラウスにもウェルナーにも、プレゼントはおろか祝いの言葉すらもらっていない。てっきり私が誕生日だと知らないのだと思っていた。ウェルナーの素敵な声でおめでとうと言ってもらえるのを楽しみにしていたから、あらかじめアピールしておけばよかったと後悔していたぐらいだ。


 そんな理由があったなんて。


「内緒にしてください。私が漏らしたなんて知られたら、大変なことになります」

 無言でうなずく。

 クリズウィッドは本命がいるのに。意外にも狭量なのか。

 楽になっていた気が、また少し、重くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ