31・1狭量
今年の誕生日は色々と例年とは異なった。屋敷で開かれる夜会にクリズウィッドが招かれ、父も一応は自分が選んだ婚約者をもてなした。母も兄一家もそれなりにきちんと対応した。私たちが婚約してから初めのことだ。
クリズウィッドは、戸惑うなあ、とこそっと伝えてきたけれど、そつのない振る舞いをしてくれて、表面的には和やかだった。
他の面子はほぼ変わりなく父一派の人々で、毎年来ているジョナサンも来て、豪華な首飾りのプレゼントと共に
「おかしいな。君の隣に似合うのは僕のはずなのにな」
という勘違い発言をかましていった。
思わずこぼれそうになるため息をなんとか飲み込んで。だけどジョナサンにもらったプレゼントなんて絶対に身に付けられないなと気づいて、結局はため息をついた。
再来月にルクレツィアの誕生日があるから、パーティーに彼を呼ぶ作戦を練ろう。
一方で親友主催の誕生パーティーは、まったくの例年通りだった。ちょこっとだけクラウスとウェルナーが呼ばれるかなと思っていたけど、そんなこともなかった。そりゃ親しくしちゃまずい攻略対象たちだからね。
シンシアからは可愛い小鳥のブローチが届いた。
◇◇
誕生日から一週間ほどが過ぎて。
ルクレツィアの元から帰ろうと廊下を歩いていると、ばったりラルフに会った。一人だ。見送りの侍女に、主人を見なかったかと尋ねている。見失ってしまったという。
先ほどまでクリズウィッドも一緒だったけど、クラウスはいなかったと伝えると彼は困ったように頭をかいた。
「それならサロンですかね。あそこは肉食獣の巣だから、苦手なんですよ」
思わずぷっと吹き出してしまった。ラルフはイケメンだけど、かなりお堅い。俗世間に戻って一年が経つようだけど、いまだに女性に慣れないらしい。
「いいわ、私も一緒に行きましょう」
ラルフは慌てた様子で断ってきたけれど、なかなか命の恩人たちにその恩を返す機会がないのだ。これくらいは協力させてほしい。そう話して二人でサロンに向かった。
あ、また軽率だと怒られる、と気づいたのは見送りの侍女に下がってもらった後だった。
まあいいか、と二人で並んで歩いていると、ラルフはキョロキョロと辺りを見回したあとに、小声で
「お誕生日おめでとうございます」
と言った。
「ありがとう。……なぜ小声?」
苦笑するラルフ。
「内緒ですけどね。あなたの婚約者様は、あなたが他の男性に祝われるのはお嫌なようですよ」
思わぬことに驚いて足を止めた。
「どういうこと?」
「そのままですよ。あなたが目移りしないようにではないでしょうか」
クラウスにもウェルナーにも、プレゼントはおろか祝いの言葉すらもらっていない。てっきり私が誕生日だと知らないのだと思っていた。ウェルナーの素敵な声でおめでとうと言ってもらえるのを楽しみにしていたから、あらかじめアピールしておけばよかったと後悔していたぐらいだ。
そんな理由があったなんて。
「内緒にしてください。私が漏らしたなんて知られたら、大変なことになります」
無言でうなずく。
クリズウィッドは本命がいるのに。意外にも狭量なのか。
楽になっていた気が、また少し、重くなった。




