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29・3危惧

「まずくないかしら」

 庭をプチ・ファータに向かって歩きながら、ルクレツィアが小声でささやいた。


 せっかくのジョナサンをふりきって、私をクリズウィッドから遠ざけ、何事かと思ったらその言葉を言われたのだった。


「何が?」

「だって!」ともどかしそうなルクレツィア。「あなたが言葉に詰まったのを公爵が助けたのよ」

 なるほど。考えてもみなかった。

「また、彼はあなたを助けたの。主人公はそう思ったに違いないわ」

「でも彼はクラウディアと腕を組んでいるわ」

「お姉さまはモブだからかしら? 気にしていたのは最初だけよ。私たちが去るとき彼女はあなたをじっと見ていたわ」

「そんな!」

 どうしてそうなるのよ!

 私はちょっと彼女の頼み事に戸惑っただけじゃない!


「ねえ、アンヌ」彼女はますます小声になる。「お気をつけて。優しいあなたのことだから、主人公のことを気にかけて返事をしたのでしょうけど、何が命取りになるかわからないわ。慎重にならないと。あなた、公爵に広間から抱き上げられて連れ出されたばっかりなのよ」

「そうだったわ。忘れていた!」


 ルクレツィアは目をぱちくりさせてから、もう、と笑った。

「普通はあんな大事件は忘れないものよ」

「だって。なんとかあなたとジョナサンに機会を作ろうと、それで頭がいっぱいだったのよ」


 ちらりと後ろを振り返ると、ジョナサンはクラウディアと話している。クリズウィッドはクラウスと。

 おかしいな。もう計画が狂っている。

 ちなみにこの作戦、クラウディアがクラウスと仲良くなる目的もある。


 再びルクレツィアを見ると真っ赤になっている。

「どうして私の前ではこんなに素直なのに、彼の前ではツンしかないのかしら?」

「わからないわ。そうなってしまうのよ」

「とにかくがんばりましょう!」


 私は再び振り返って、

「そうだわ、クラウディア!」

 と呼び掛けた。私の意図を察したらしい彼女はジョナサンに、その続きはまた後で聞かせてと言って、足早に私の元へ来た。


 手持ち無沙汰のジョナサンともじもじのルクレツィア。


 参ったなと思っていると、クラウスがルクレツィアに何事か話しかけ、次にジョナサンに話しかけ、上手い具合に三人で話し始めた。


「あら、さすが」とクラウディア。「ジョナサンなんて明らかにクラウスを避けているのに、お手のものね」

 クリズウィッドがやってくる。

「ね、彼もいて正解だったでしょ?」とクラウディア。

「そうだな。お前は策士だよ」と苦笑するクリズウィッド。


 当初の案はクリズウィッド、ルクレツィア、私、ジョナサンの四人だったらしい。

「クラウディアは頼れるわ!」

「そうでしょうとも!」

 他人の噂話しかしてないうちの姉や母とは大違いだ。

「今日は頑張るわよ!」

 そう宣言する彼女に、小さな喝采を贈った。



 ◇◇



 プチ・ファータに到着すると先発した侍従、侍女たちがテラスに設えてくれたテーブルに、残りのメンバーが座って待っていた。

 私たちに気づいて立ち上がる。ウェルナーとシンシアだ。

 シンシアは見るからに緊張した面もちで、それでもしっかりと私たちの方を見ている。

 私は小さく手を振って、目が合うとにっこり笑った。少しだけシンシアの顔が和らぐ。


 今回の三つ目の目的。それはシンシアのプチデビューだ。

 まずは私の親友ルクレツィアや兄の親友クリズウィッドたちと会うことから始めることにした。だから彼女とエスコート役のウェルナーは、直接こちらに来たのだ。


 これは、クラウディアからプチ・ファータへのピクニックを聞いたとき、私が思い付いた作戦。ダメ元でシンシアに提案をしたのだけど、彼女は了承した。

 ルクレツィアに会ってみたい、と。


 ちなみにジョナサンには、シンシアが王宮デビューする準備のためのピクニックと説明をしてある。


 さて、これで全員がそろった。

 今日はルクレツィアとシンシアのために、私もがんばろう。


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