29・2ピクニック
クリズウィッドがぐるりと見回した。
「それでは行くか」
それを合図にぞろぞろと歩き出す。
私が倒れた舞踏会から約一週間後。
窓からは素晴らしい秋晴れの空が見える。
「晴れてよかった」
と隣のクリズウィッドが私に笑顔を向ける。そうね、と私は婚約者に笑顔を返す。
私たち二人の後ろには腕を組んでいるクラウディアとクラウス。その後ろには微妙な距離感のルクレツィアとジョナサン。
今日はみんなでピクニックだ。王宮の敷地の端の端に、プチ・ファータという極々小さな離宮がある。その周囲は自然を活かした庭園になっていて、季節を楽しむのにうってつけの場所だ。
だけど、遠い。物好きしか行かないから今回の作戦にはぴったりの場所らしい。
つまり、これは作戦。もちろんルクレツィアとジョナサンが親しくなるためのね。
すっかり落ち込んでしまった彼女を励まそうと、クラウディアと二人で考えた。
ピクニックに行きたいけれど、ルクレツィアがひとり余ってしまうから、という理由で私がジョナサンを誘ったのだ。
こんなことを頼めるお友達はジョナサンしかいないの、とかわいらしくおねだりをしたら、鼻の下を伸ばして簡単に了承してくれたのだった。
さっそくもう気まずそうだけど。一応ジョナサンはあれこれルクレツィアに話しかけてくれている。だけど彼女は塩対応。念のため、まだ人見知り設定を継続中だ。
六人で王宮正面棟の廊下を進んでいると、ばったりジュディットに会った。
午前中からサロンに遊びに来ているのだろうか。なかなか精力的だ。通常ご令嬢たちが来るのは午後からだもの。
それにしてもゲームでこんな展開があったっけと思い、ルクレツィアを見る。彼女も首をかしげていた。
帰ったらシンシア作成の進行表を読みなおそう。
ジュディットはぎこちない挨拶を済ませると、うっとりした顔をクラウスに向け、それから彼と腕を組んでいるクラウディアに気づいたようで悲しそうな顔になった。わかりやすい子だ。
それでも
「みなさまはどちらへ?」
とクラウスに声をかけた。
このメンバーといる彼に物怖じせずに話しかけられるのは、クラウスの取り巻きの中でも、一部の強者だけだ。扱いが悪かろうがクリズウィッドたちは王子に王女。大抵の取り巻きは、無難に遠巻きにしているものだ。
それを気にしない無邪気な感じが主人公の魅力だったはずだけど、クラウスは冷めた目を彼女に向けている。まだ好感度は上がってないようだ。
あらあらまあまあ、という揶揄が聞こえた。気づかなかったけれど、柱の陰に一組の男女がいた。こちらを見ているようだ。
「庭園にピクニックに行くのよ」
私が答えた。関わりたくないけれど、またクラウスに軽くあしらわれていたなんて噂が立つのは気の毒だ。
「素敵!」とジュディットは私を見て声を上げた。「ご一緒してもいいですか?」
「えっ」
思わず言葉につまる。そう来るとは思わなかった。
そうだった。彼女は庶民出身でマナーを知らない。私の常識外の反応が来ることを想定していなければならなかった。
「今日は親しい者だけの集まりだ。申し訳ない」
そう答えたのはクラウス。クラウディアがごめんなさいね、と付け足す。
クリズウィッドに行こうと促されて、泣きそうな顔の主人公を置いてその場を離れた。




