28・2強まる呵責
「この方たちはジュディットと親しくならないのかしら」
手の中のリストを見ながら尋ねる。
だけど口にしてから気がついた。主人公がデビューしてまだ二週間だ。まだ親しくなる機会はないだろう。
というより出会ってない可能性の方が高いかもしれない。
「わからないけれど……」
ルクレツィアは表情を陰らせた。
「先ほども言ったとおり、男の人とばかり話すようなの。彼女から令嬢の輪に加わることはないって、お姉さまが話していたわ。そういうゲームの主人公だから、仕方ないのかもしれないけれど。彼女とちゃんと会話したことがある同性は、まだお姉さまだけみたい」
その時、すっかり忘れていたことを思い出した。
「彼女は、良い政略結婚をするために養女に迎え入れられたと聞いたわ」
「そうなの?」
「男の人たちはみんな知っているという話だったけれど、どうなのかしら」
「どなたから聞いたの?」
一瞬だけ言葉に詰まった。ルクレツィアと約束をした三ない運動が頭を過る。だけど疚しいことはなにもない。
「公爵よ。主人公のドレスにワインをかけてしまった時に、少しだけ二人で話したの」
ルクレツィアは黙っている。
「ルクレツィア?」
「アンヌローザ」とても真剣な表情だ。
「なあに?」
「彼を好きにならない? 大丈夫?」
「大丈夫よ」予期せぬ質問に驚きすぎて、彼女を安心させようと口がすべる。「リヒターがいるもの」
はっとして口に手をやる。私は彼女の兄と婚約をしている。
「……その人と何か進展が?」
すごく不安そうなルクレツィア。
「ないわ。変わらず私の片思いよ。ごめんなさい、無神経なことを言ったわ」
「いいえ。好きになるのは止められないもの。でも忘れないで。お兄さまも素敵な人よ」
「わかっているわ」
悲しそうな親友の顔に胸が痛む。
これをいつまで続けるのだろう。いつかリヒターを好きな気持ちがなくなるまで?
やっぱり逃げ出してしまいたい。
「一度会ってみたいわ」とルクレツィア。「そんなにあなたが好きなのですもの。きっと良いところがある人なのよね」
「シンシアにも同じことを言われたの。だけどリヒターは嫌だと言うの。これ以上、ご令嬢に関わりたくないって」
ルクレツィアが実際に会ったら、もっと反対するのではないだろうか。リヒターの良さはきっとすぐにはわからない。
「残念だわ」
「ごめんなさい」
なんとなく話が止まり、お互いに菓子を口に運ぶ。
と、開け放した扉からシャノンが顔を出した。
「クラウディア様がご一緒したいそうですが、よろしいでしょうか」
私たちの間にほっとした空気が流れる。
ルクレツィアがうなずいて、クラウディアが室内に入ってきた。それだけで部屋に活気が満ちる気がする。
「可愛いアンヌローザ! 元気になって良かったわ!」
彼女の笑顔にまた良心が痛んだ。




