25・1良い日
世の中、うまく行かないもんだなあと思いながら、道の先でいつもどおりに待っているリヒターを見た。
私はリヒターが好きだけど、リヒターには恋人のような人がいる。
ルクレツィアはジョナサンが好きだけど、ジョナサンは可愛い女の娘全般が好きで、いつも両脇に誰かを侍らせている。
シンシアも片思い。
クラウディアはろくな結婚をさせてもらえなかった。
そして主人公も、見通しは暗いようだ。
誰か一人くらい明るくハッピーな恋ができないものだろうか。
「お待たせ、リヒター」
「おう」
リヒターは時々香水の香りがする。女物の。恋人の移り香なのだろう。
「いよいよ来週だね。お祭り。行ける?」
並んで歩きながら尋ねる。リヒターはちらりとこちらに顔を向けた。
「……行けるけど、高えからな」
好きな奴は?と尋ねられるかと思ったけど、違った。ほっとする。
「わかってるよ。お支払いするものも全部もつから。好きに飲み食いしてね」
「小娘の言うセリフじゃねえよ」
「小娘だけど、ご令嬢だからね」
「どっちみち俺より年下じゃねえか」
「あ!」
「今度はなんだよ」うんざり声だ。「別料金でふんだくるかんな」
「来月で十七になるの」
「……へえ」
「ちょっとリヒターに近づくよ」
「ひとつ増えたって小娘なのは変わんねえ」
「そうだけどさ」
誕生日が来たら、リヒターにおめでとうと言ってもらいたいな。それだけで幸せなんだけどな。ダメかな。
そうだ。
「リヒターは誕生日はいつ?」
「もう過ぎた」
「そうなの?」もっと早くに気づけばよかった! 「いつだったの?」
「……先月」
しまった、バカンス中か。
リヒターの持つカゴが目に入った。これからパン屋に行く。
「じゃあ三十一か。誕生日のお祝い代わりに好きなパンを買ってくるよ」
「いらねえ」
「なんで? プレゼントしたいよ」
ついこぼれた本音。本当はもっと素敵な品を贈りたい。だけど恋人に悪いから、せめてパンでも渡したい。
「食いもんより酒にしろ」とリヒター。
「わかった。帰りにお酒屋さんに寄ろう」
「おう。たんと買え」
「うん」
やった! プレゼントができる!
それだけでこんなに嬉しい。帰りに寄り道ができる。しかも今まで行ったことのないお店に二人でいける。今日は良い日だ。
◇◇
パン屋を出ると、離れたところでリヒターが二人の近衛兵と話していた。穏便な様子ではない。リヒターが強く責められているようだ。
助けに行きたいけど、近衛は見たことのある顔だ。宰相の娘だとバレるにちがいない。それはできれば避けたい。
この時間にこんな所にいる近衛は、勤務中ではないだろう。制服も着くずしている。何があったんだろう。
カゴを握りしめる。
どうすればいい?
早く考えろ!




