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24・3悪役令嬢の末路

「そんなに変わっているの?」

 尋ねるとシンシアは大きくうなずいた。

 クラウスはうちの兄やその友人たちとは違う、とは思う。だけどそれほど変わり者という印象はない。


「私も引きこもりだから他の青年貴族は亡くなった兄とウェルナーしか知らないけど。クラウスはゲームの印象とも違うし、主人公がゲームと同じような選択をしてもきっと上手くいかないと思う」

「彼も前世の記憶があるとか?」

「いいえ。そういうのじゃないの。もっとも変わり者でも、良い兄、良い当主なのは間違いないわよ」


 シンシアは私の顔をじっと見た。


「そうね。彼はすごく周囲を冷徹に観察しているのよ。だから察しもいいわ」

「それはわかるわ」

 何度かそれに驚かされている。

「だからあなたが今のままなら、悪役令嬢として断罪されることはないのじゃないかしら。例え冤罪を着せられても、真偽を判断できる人だと思う」

「そうかしら」

「多分ね。どんなに主人公が可愛くて素晴らしくても恋に溺れるような人には見えないし、万が一溺れても冷静な判断を下せる人だと思う」

「とにかくバッドエンドだけは絶対に回避したいわ」


 以前にシンシアから教えてもらった各エンド。ネット情報通り悪役令嬢の末路はどれも悲惨だ。



 ノーマルエンドの場合。私は主人公に卑劣な虐めをしたことにより婚約者の王子の顔に泥を塗った悪女と判断されて、身分を剥奪されて生涯幽閉される。ルクレツィアも同様だ。そしてなぜかクラウスは旅に出る。


 ハッピーエンドの場合はより酷い。王子の婚約者の立場でありながら彼の友人を好きになった不義と、その恋人を虐め、また二人の恋路を邪魔した悪行を咎められて、処刑される。ルクレツィアはノーマルと同じ幽閉。


 そして最悪のバッドエンド。私とルクレツィアは刺し違えて二人とも死ぬ。クラウスが他の女のものになるぐらいなら殺してしまおうと考えて、たまたま二人同じタイミングで短剣で彼を襲い、そうなるらしい。そんなバッドなミラクルがあるか!と突っ込みたいよ、まったく。

 クラウスは友人の婚約者と妹が自分のせいで死んでしまったことにショックを受けて、『探さないで下さい』との書き置きを残して失踪。

 クリズウィッドはこの惨劇を目の前で見たショックで修道院に引きこもる。

 主人公一家は騒動の責任をとらされて、都から追放。

 とにかく救いようがない。



「やっぱり、悪役令嬢としての結末抜きのハッピーエンドがいいわよね」

 私がそう言うとシンシアは不思議そうな顔をした。どうして?と言う。

「ジュディットのことはまだよく知らないけれど、恋が叶わないのは辛いもの」

 彼女はうーん、と考えこんだ。


「確かに主人公はクラウスに恋してるだろうけど、ただの一目惚れでしょう? 彼の外見が好きなだけだわ」

「それじゃダメ? 妹としては面白くない?」

 シンシアは違うわ、と言った。

「そうね、これが一番彼の変なところかも。クラウスって自分の顔が好きじゃないみたい」

「ええっ!? あんなにイケメンなのに!?」

 父やその一派ですら、顔についてだけは詰れない。文句のつけようがないからだ。

「ブルーノたちに聞いたのよ。平凡な顔がよかったのですって。修道院では悪目立ちしてたとアレンも言っていたわ。だから自分の顔に一目惚れするような女の子を彼が好きになるとは思えないの。主人公に一目惚れされたのは気づいているでしょうしね」


 意外すぎる。誰もが認める美男なのに。


「さっきだって主人公は懸命に話していたけれど、クラウスは完全に社交だったわよね」

 それは私も感じた。私たちといるときより、雰囲気が格段に冷たい。もっともゲームの印象通りとは言える。


「ゲームのハピエンは彼にとってはハピエンじゃないわ。だから主人公には攻略は難しいのじゃないかと思うの」


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