表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/251

24・2友達

 予め異母兄の美貌を知っていたシンシアだったけれど、それでも初めて会ったときは圧倒されたそうだ。


「だって推しキャラだったのよ! そのクラウスが生きて動いて喋っているの。気を失うかと思ったわ。キラキラオーラは凄いし、尊すぎて目がつぶれたぐらいよ」

「いやいや、見えてるよね」

「そのくらいの衝撃だったのよ」


 まあ、わからないでもない。私もウェルナーの生声をそばで初めて聞いたときは、鼻血を出すかと思ったもの。

 彼女にそう言うと、ほらね!と笑われた。推しキャラに会ったらそうなるものよ、と。


 ちなみにシンシアは前世を思い出して、自分が推しキャラの血を分けた妹に転生していると気づいたとき、神を呪ったそうだ。それから実は血が繋がっていない可能性を探したそうだけど、徒労に終わったらしい。


 だけど拍子抜けしたことに、クラウスに会っても恋しなかったそうだ。

 自分でも不思議だ、とシンシアは笑った。私もウェルナーに恋してないのと話すと、理想と現実は違うね、という結論に達したのだった。


 彼女が付き合いやすいなと思うのは、ここでルクレツィアはどうなのかと詮索してこないところだ。同じ悪役令嬢で前世の記憶持ち(これはルクレツィアの許可の元、私が話した)だから、気になるはず。

 だけどシンシアはそうしなかった。



 ところで二人はほぼ他人のような境遇の兄と妹だけど、兄はちゃんとした兄らしく、妹を気遣っているらしい。

 クラウスが当主になった日に言われたそうだ。家族を政治の駒に使うことはしないから心配しなくていい。だけどその代わり自分から動かなければ、いつまでも屋敷の中だけで暮らすことになるよ、と。


 だから彼女が外に出たいと望むことは大歓迎で、そのための協力は惜しまないらしい。



 ◇◇



 クラウスは、私たちが二人だけで話しができるよう、個室には給仕のとき以外は人が入らないよう言いつけてくれた。おかげでのんびり秘密の話ができる。


「クラウスは結構な変わり者だと思う」

 給仕が下がるとシンシアは言った。

「長く修道院にいたから、というのとは違うと思うの。上手く言えないけれど。主人公は攻略は出来ないんじゃないかな。あ、」


 彼女はカトラリーを運ぶ手を止めて私を見た。


「さっき店内で会ったでしょ?」

 ええとうなずく。

「ゲームだと、この時期にはなかったわ」

「そうなの?」

 うなずくシンシア。彼女の手紙での『危険』とは、悪役令嬢二人と攻略対象二人というメンバーでの外食が、シンシアと私に悪影響を及ぼさないかという危惧だったそう。ただゲームでは先ほどの言葉通りに、この時期での出来事になかったから、敢行したという。

 だがまんまと主人公に会ってしまった。


「中盤にはあるのよ。クラウス、ウェルナーと悪役令嬢三人と、リストランテでばったり会うシーンが。ちなみにクラウスの両脇にあなたたちね。私はもちろんウェルナーのとなり」

 思わず苦笑する。

「質問の答え方によって好感度が上がって、後日二人で食事に行けるの」

「シチュエーションは似てるわね」

「クラウスも話しかけていたし」

 先日のドレスについてだ。私も改めて謝罪はした。だけど主人公になるたけ関わりたくないので、すぐに退いた。そのあとも彼女はずっとクラウスに話しかけていた。


「あれは完全にクラウスルートの顔ね」とシンシア。

「そう見えるわよね」

「で、あなたは悪役令嬢ね」

「やっぱり……」

 がくりと肩を落とす。

「彼女は誤解をしているんじゃないかしら」

 誤解?と聞き直す。

「いただいた手紙によると、主人公に会ったとき、クラウスと二人でいたのでしょう?」

「そうよ」

「そして今日も一緒。私はただの妹」

「だから?」

「あなたがクラウスの恋人と誤解」

「ええっ!!」

 思わず大きく叫んでしまった。

「だってあなたが汚したドレスの弁償をクラウスがするのでしょう?」

「そうか……」

 伯爵は私がクリズウィッドの婚約者と知っているだろうけれど、娘にそれを伝えたかはわからない。伝えていたとしても……。

「……ライバル認定されてる?」

「あの顔はきっとそうよ。『こんな素敵な人が隣にいては私なんてだめよ』って表情だったわ。あ、そうだわ」

 彼女は手を額に当てた。

「なんておバカなのかしら。思い出せる限りのクラウスルートについて、書き出しておいたのよ。なのに持ってくるのを忘れてしまったわ」

「書いてくれたの!?」

 ええ、とうなずくシンシア。

「私がプレイしたのは中盤までだから、半分はネット情報だけどね。メモがあればいつでも見返せるし、ルクレツィア殿下には、話すより正確に伝わるでしょう?」

「シンシア! なんて言っていいかわからないわ! ありがとう!」

「でも忘れたのよ、私。王宮経由で届けるわね」

 実は私たちの手紙はルクレツィア経由だ。何しろ父はクラウスから届いたカゴ盛りフルーツを窓から捨てた。シンシアからの手紙も捨てられてしまうかもしれない。

「わかったわ。本当にありがとう」

「だって」シンシアは頬を赤らめた。「初めてのお友達だもの」


 その言葉に切なくなる。

「……あなたとお友達になれて、私は嬉しいわ」

 それだけを返す。

「私も。あの日、がんばって出掛けてよかった」にこりとシンシア。「そうそう、それでね、話が反れてしまったわ、クラウスよ。変わり者よ、彼」


進度が牛歩ですみません…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ