24・1食事会
シンシアへ手紙を出すと、即、返事が帰ってきた。私とルクレツィアのことを心配し、とにかく会って話そうと言ってくれた。
ただ問題なのは、どこで会うかだ。
お互い因縁のある家柄だ。シンシアがうちに来たら嫌な思いをするだろう。私があちらへ行ってもそうなると、シンシアは言う。母君や昔からいる使用人たちが反ラムゼトゥールだそうだ。当然のことだよね。
だから以前会ったのが、喫茶店だったのだ。
今回は話の内容から個室がいい。だけれど生憎私達は、小娘二人に利用させてくれるようなお店を知らない。
結局何往復目かの手紙でシンシアが、ちょっと危険だけれど奥の手を使うと宣言をした。
◇◇
週が明けてのお昼時。
一度王宮へ行き、ウェルナーとリリーと私の三人でヒンデミット家の馬車に乗って、いくらご令嬢とはいえ小娘二人では入れないリストランテへ向かった。
店の前で馬車を降りるとちょうどフェルグラート家の馬車も到着したところだった。中から兄妹と従者のアレンが降りてくる。
……失礼だとは百も承知だけれども。
はっきり言って二人は兄妹に見えない。シンシアも可愛いけれど、兄の美貌が一般を突き抜けすぎている。ついでにアレンも主人に負けないイケメンだ。隣に並んで社交界に出るのはトラウマを抱えた身には、勇気がいるだろう。
シンシアは私に会えたことを喜んでくれた。前回の喫茶店は楽しかったと言う。
「それならもっと沢山お茶に出掛けましょう」
と誘うと彼女は少しずつね、と返事をした。
「あまり他のご令嬢には会いたくないから」
「そうね、シンシアのペースにしましょう」
彼女はにこりと微笑んだ。
お店に入る。すでに支配人が待ち構えていて、丁寧に挨拶をされた。
父と来る時と違う。いつもは表情も態度ももっと固く、緊張感がある。今回は明らかにリラックスしている。父がどう思われているのか、如実にわかる。
と、奥から数人の人が出て来た。その中にジュディット・ゴトレーシュと伯爵がいる。
全員で和やかに挨拶を交わす。
ジュディットはうっとりした目でクラウスを見つめ、予期せぬ出会いの喜びを懸命に伝えていたけれど、私に気づくと悲しそうな顔になった。まずい、もう嫌われたのだろうか。
参ったな、とシンシアを見ると彼女は困惑の表情で目を伏せていた。
遅ればせながら見知らぬ人たちが怖いのだと気づき、ゴトレーシュに話しかけながら然り気無く動いて彼女の前に出た。
そんなやり取りを経て、ようやく個室に入る。
ヒロインから離れられた安堵に思わずため息をつきそうになり、慌てて口をふさぐ。
椅子に座ると、クラウスと目があった。心なしか普段より柔和な表情だ。
「ありがとう、アンヌローザ。シンシアを気遣ってくれて」
「何のこと?」
彼は笑みを浮かべた。
「普段はろくに友人以外と会話をしないくせに、先程は饒舌だった」
「そんなことないわ。おしゃべりが好きだもの」
隣のシンシアが私を見る。
「そうなの? ありがとう、アンヌ」
「感謝されることなんて何もしてないわ」
私だって公爵令嬢だ。やろうと思えば社交ぐらいこなせる。普段のモードがロウなだけだ。
それから食事を四人でして、そろそろ中盤という頃に、クラウスに使者が来た。緊急の仕事だという。彼は支配人に、妹たちを頼むと言って、右腕を連れて王宮へ向かった。アレンとリリーが保護者として隣室に残っている。
もちろんこれは、当初からのシナリオだ。私達二人がのんびりと個室を使うための。シンシアの提案を兄は快く引き受けてくれたそうだ。
「二人には申し訳ないわ」と私。
「いいのよ」とシンシア。「私が外出するだけでクラウスは喜ぶから」
それは聞いている。あの兄は妹をちゃんと心配しているそうだ。
ちゃんと、という言葉はおかしく聞こえるかもしれないが、それが妥当な表現らしい。
前回彼女とお茶をしたときに教えてもらった。
シンシアとクラウスは、彼が還俗するまで一緒に暮らしたことも、会ったこともなかったという。彼は五歳で都を出て、十歳で出家するまでは領地に住んでいたらしい。
シンシアははっきりと言わないが、領地暮らしには、ユリウスや父から遠ざける意図があったようだ。
そんな経緯のため異母兄に会ったことのなかったシンシア。
「前世を思い出しておいて良かったわ。なんの知識もなくあんな兄に会っていたら、ますます自分の顔が恥ずかしくて引きこもっていたわよ」
そう苦笑していた。




