23・6味方がほしい
「それで主人公はクラウスを選んだの? アンヌは見ていたの?」
まだほんのりと赤い顔で尋ねるルクレツィア。私はええ、とうなずいた。
「ごめんなさい、ルクレツィア。私、立派な悪役令嬢になってしまったわ」
「ええっ!?」
私は席を立った後のできごとを、覚えている限り詳細に話した。
終わるとルクレツィアは顔を青ざめさせて呆然としていた。
「ごめんなさい」とルクレツィア。
「何が?」
「だって」ルクレツィアの目に涙が浮かぶ。「三人のルートが始まるフラグを折ればなんて言い出したの、私ですもの。あんなことを言わなければ……」
彼女は泣き出した。
私は立ち上がると彼女の隣に座りなおし、その両手を包み込む。
「ルクレツィアのせいじゃないわ」
しばらく泣きじゃくる彼女を懸命に宥めた。
クラウスルートだと、ルクレツィアだって悪役令嬢になる予定だ。もっと根本的な対策を立てなければならない。
彼女が落ちつくのを待ってから、そのことを口にした。
「私、悪役令嬢になりたくないわ。だけど」とルクレツィア。「ジョナサンの危険が回避できて良かった」
後半部分はほとんど聞こえないような声量だった。
「そうね、私もそう思うわ。後はあなたが素直にその気持ちを彼に伝えられたら、悪役令嬢にならなくて済むかもしれないわよ」
「それができるのなら、こんなに苦労していないわ!」
「あら、本当」
二人で声を出して笑い合う。
「とにかく、クラウスルートについてシンシアに聞いてみましょう。詳しいと言っていたわ」
以前手紙で、ルクレツィアと私がどんな結末を迎えるかは教えてもらった。
今日の様子を明日手紙で伝える約束をしているから、ゲームで実際に私達が仕出かすことを知りたいと頼んでみよう。
「ねえ、ルクレツィア。私はあなたしか友達がいないわ」
「私もアンヌローザしかいないわ」
「ずっとルクレツィアがいればいいと思ってきたけれど、いつまでもそれではいけないかなと思うの」
どうして?と尋ねるルクレツィアは悲しそうな顔をした。
「味方になってくれる人が他にもいたほうが絶対にいいわ」
それは理由の半分。
「……そうね。私達の味方になってくれるのは、お姉さまとお兄さまぐらいだわ」
「嫌な人たちと仲良くする必要はないけれど、探せばきっと気の合う人がいると思うの」
「ええ。派手に動くとまずいでしょうから、静かに探しましょう」
ルクレツィアが賛成してくれたことに胸を撫で下ろす。
理由の残りの半分は、私が修道院に逃げてもルクレツィアが一人ぼっちにならないため。
クリズウィッドと一緒にいることに、いつか慣れる日が来ると考えもしたけれど、無理な気がしてきたのだ。
ごめんねルクレツィア、と心の中で謝った。




