21・2帰途
訃報の翌日三兄妹は離宮を立った。
知らせは早馬でもたらされたけれど、それでも死後から日が経ち、夏場の今時期に子供たちを待つことは不可能で、葬儀は既にお終わっている。とはいえ一刻も早く母の元へ駆けつけたいとの思いからの出立だ。
私も彼らと共に立った。両親には苦い顔をされたけれど、母の急逝に焦燥しきっているルクレツィアを放ってはおけないと懇願に懇願を重ねて了承を得た。
ついでにクラウスも一緒だ。やはりクリズウィッドの友人として、らしい。三兄妹の馬車にまで乗り込んで来た。
だけどさすがにクラウディアも喜ぶことはなく、ルクレツィアも『三ない運動』どころではなかった。
ただ、彼の存在には助かった。このメンバーなら当然座るのはクリズウィッドの隣だ。おかげで私はルクレツィアの隣になることができた。
◇◇
往きと同じく数日かかる道程を旅していれば、ふとした弛みが出るようだ。
泊まったホテル近くの街中で、うっかりクラウスとブルーノに出くわしてしまった。しかも私はまた一人。リリーに内緒でこっそりと早朝の散歩へ行った帰りだったのだ。
私を見たクラウスはため息をついた。
「公爵令嬢の一人歩きを見過ごすわけにはいかない。不満だろうが、一緒に戻ろう」
彼の判断は常識的には間違っていない。
ブルーノがいるから、ぎりぎり三ない運動には抵触してないしね。おとなしく従うことにした。
……というか、この二人は何をしていたのだろう。やっぱり早朝散歩かな?
疑問を感じながらも尋ねる気力はなく、三人で無言で歩いた。
宿に着いても二人は私を部屋まで送る気のようで、離れることはなかった。
ようやく自室の前に戻り、頭を下げた。送ってもらった礼を言う。
クラウスは眉間に皺を寄せて、またため息をついた。
「亡くなられたことと、あなたが結婚が取り止めにならないかと願ったことには何の因果もない」
その言葉に心臓が跳ねた。なぜ、私が考えていることを知っているのだろう。
「見ていればわかる」
察しが良すぎじゃないの? 私は何も言っていないのに。
もしかして私が町を歩いていた理由も気づいているのだろうか。教会に告解をしに行っていた、と。
私だってわかっているのだ。結婚をしたくないと望んだから、母君が亡くなった訳ではない。だけど良心は痛む。
「私たちはもう修道士ではないが」とクラウス。「悩みを聞くことぐらいはできる。辛いことがあれば……ブルーノやラルフに話すといい」
クラウスの翠の瞳を見る。ゲーム通り、チャラい女好きに見える時もあるけれど、時折修道士だった頃の姿が垣間見えるときもある。このバカンスで知った。
私が彼を避ける理不尽な理由に憤慨するでもなく、理解を示してくれている。
「ありがとう」素直に礼を言って、ブルーノを見る。「頼っていいのかしら?」
もちろんです、とうなずくブルーノ。彼にも礼を言い、自室に帰った。
……リヒターにこの話をしたら、公爵はかっこつけだと言うのだろうな。
またしょんぼりか、と呆れ声をあげながらも、話を聞いてくれるのだろうな。
早く帰ってリヒターに会いたい。裏のないストレートな言葉で、チンピラのような汚い口調で、弱い私を吹き飛ばしてほしい。




